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「安倍一強」政治の軋み

佐藤甲一|2018年3月9日2:30PM

「針の落ちる音も聞き落とすな」。ある先輩記者から教えられた政治記者の要諦である。

権力の変調がどこに現れるか、その兆しを見逃さないようアンテナを張り巡らし、些細なことからその本質を見抜け、と理解してきた。ここにきて「安倍一強」政治の軋みが目につき始めている。

まずは外交だが、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核・ミサイル問題に対応した米国の事実上の政策転換に、安倍外交が対応しきれていないことが明らかになってきた。金正恩朝鮮労働党委員長の妹で党宣伝煽動部第一副部長の金与正氏訪韓により、まさに平昌オリンピックは外交の主戦場になったのである。

だが、日本外交の硬直ぶりはこれだけに止まらない。河野太郎外相は国際会議の場などで、たびたび北朝鮮の「微笑み外交」に「騙されてはいけない」と繰り返してきた。一方、安倍首相も文在寅韓国大統領に「米韓合同軍事演習」の実施を迫るという「内政干渉」を行ない、不興を買った。

ところがである。安倍首相が蜜月ぶりを誇っている米国は、北朝鮮の外交攻勢を「好機」と見なし、柔軟に政策の修正を図り始めた。ペンス米副大統領は2月14日にワシントンで行なわれた講演で経済制裁はこのまま維持するものの、「交渉」と「対話」を使い分け、北朝鮮との「対話」によって現状認識を確認し米国の方針を伝えることは必要だ、と述べた。国務省も「予備的な協議」の必要性を認めている。

明らかに米国は「米朝直接対話」を念頭に、非核化に向けた協議の可能性を模索し始めたのである。

ところが、「対話のための対話には意味がない」としてきた安倍政権は、この米国の重大な政策転換を事前に察知することができなかったのだろうか。河野外相は訪問先のドイツで米国の「予備的協議」について問われ、「ペンス副大統領がtalk と言ったものを、『対話』と訳したメディアがあったが、正確には『接触』というふうに訳すものだと思う。そういう接触を否定するものではないが、今、対話することに得るものはない」と答えた。

冗談ではない。どういう翻訳をしたかが問題なのではなく、米国が朝鮮半島の非核化に向けて北朝鮮と対話の入り口に立とうとしているのが事の本質だ。「対話」はだめでも「接触」は必要などとは詭弁以外の何ものでもない。こうした「お役所的な対応」こそ日本外交の「一周遅れ」を如実に示すものだ。いまだに森友学園問題における佐川宣寿前理財局長(現国税庁長官)の国会答弁の誤りを認めず、強弁を繰り返す財務省の姿勢と何ら変わりない。

ただ最近、省庁の対応に微妙な変化を感じることがある。森友学園問題に関して、小学校用地の概算を伝えたとする財務省の内部文書の公表、また衆議院予算委員会で立憲民主党の長妻昭氏が指摘した、「働き方改革関連法案」立案の基礎となった厚生労働省のデータの提出など、省庁サイドから安倍政権にとって不利益をもたらす文書が国会側に出されてきた。

文部科学省事務次官だった前川喜平氏の例のように、「霞ヶ関」の中で次第に安倍政権と距離を置く空気が出てきたのではあるまいか。これらが「針の落ちる音」なのかどうか、いまは静かな永田町に変化がもたらされる気がする。

(さとう こういち・ジャーナリスト。2018年2月23日号)

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