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米軍の事故責任を不問にする日米地位協定
黒島美奈子|2018年3月13日12:47PM
「日米地位協定」とは何か。私たちの生活にどういう関わりがあるのか。2月に相次ぎ発生した軍用機事故で、図らずも、協定の正体が露わになった。
2月5日、佐賀県神埼市の住宅地に陸上自衛隊のヘリコプターが墜落した。乗員2人は死亡、墜落した住宅にいた児童1人がけが、住宅2棟が炎上した。
事故現場には、陸自をはじめ県警や消防が駆け付け、業務上過失致死と航空危険行為処罰法違反の容疑で現場検証を実施。翌日には、主回転翼(メイン・ローター)の異常が墜落につながった可能性のあることが報じられた。陸自は即座に事故機が所属する目達原駐屯地のヘリ全機の運用停止を表明。事故機と同型機以外のヘリ飛行を再開したのは、事故から約2週間後の22日だった。同型機の運用停止は2月26日現在継続している。
この間、墜落の原因も少しずつ明らかになってきた。事故から9日後には防衛省が、事故機のメイン・ローター・ヘッドが以前にも故障・修理した中古品であったと公表している。原因究明を速やかに実施・公表し、住民の安全に配慮する。当たり前のようだが、一連の陸自の行動は日本国憲法や国内法の存在なしにはあり得ない。
同じ頃発生した米軍機事故の顛末はどうか。2月20日、青森県の米軍三沢基地所属のF16戦闘機が離陸直後にエンジン火災を起こし、燃料タンク2個を基地近くの小川原湖に投棄した。燃料タンクは空の状態で重さ215キロという。当時、約10隻のシジミ漁船が操業しており、一歩間違えれば人身事故の可能性もあった。湖には漏れ出た燃料が広がり、直後から全面禁漁を余儀なくされた。
当日、各紙は米空軍第35戦闘航空団司令官が発表した「事故原因究明のため、徹底した調査を実施する」とのコメントを報じた。しかし以降、事故調査の進捗情報はない。湖面に広がった燃料の回収は、青森県知事による「災害派遣」要請で海上自衛隊があたり、米軍の姿はなかった。『しんぶん赤旗』によると、米軍は事故後も同型機の訓練を実施している。
この対応の差を生み出しているのが、1960年、安保条約に基づき定められた日米地位協定の存在だ。米軍がドイツやイタリア、韓国など他国との間で結ぶどの地位協定と比べても日本とのそれは片務性が目立つ。つまり、米軍による事故の責任を不問にするのが日米地位協定と言える。
過去も、そして昨年来沖縄で相次ぐ米軍機事故も、事故に関わった米軍関係者がどのように処分されたのか、私たちは知る由もない。こうした状態を沖縄県の翁長雄志知事は、2月15日の全国知事会で「憲法の上に日米地位協定がある。国会の上に日米合同委員会がある」などと皮肉った。
頻発する事故を受け、地位協定の改定を訴える声が高まりつつある。民進党の藤田幸久参院議員は1月26日の本会議で、「安倍総理は、日本国憲法は占領期に押しつけられた憲法であり改憲すべきとの考えだが、国民が米国による押しつけを実感しているのは、憲法よりもむしろ日米地位協定」などと述べた。
米軍機事故は沖縄だけでなく全国で起き始めている。いずれ国民の不満は広がるだろう。政府に危機管理能力があるなら、地位協定の改定は何より急がなければならないはずだ。
(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。2018年3月2日号)