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菅野完氏の性暴力裁判、二審は控訴棄却 二次加害の問題は未解決

2018年3月17日1:57PM

『日本会議の研究』著者の菅野完(すがの・たもつ)氏が初対面の女性に性的暴行を働いた事件について、東京高裁(阿部潤裁判長)は2月8日、同氏に慰謝料100万円を含む損害賠償110万円の支払いを命じた一審の東京地裁判決を支持し、同氏側の控訴を棄却した。被害者側の青龍美和子(せいりゅう・みわこ)弁護士は、「被害者の主張をほぼ全面的に認め、苦しみが続いていることも考慮した一審判決を支持する判決が出たことは意義深い」とコメント。菅野氏が判決後に上告はしないと表明したことで、2年以上にわたる性暴力裁判は幕を閉じた。

事件は、2012年初夏に起きた。自身が主催する運動に賛同していた被害者に初めて会った菅野氏は、「公安に追われている」などと説明し、被害者宅に移動。被害者をベッドに押し倒しキスをしようとしたほか、「抱っこ」を要求して応じさせ、その後も、性的欲望を伝え続けた。被害者は15年末に民事訴訟を提起し、昨年8月に一審判決が出ていた。被害者は現在に至るまで、精神的苦痛によりカウンセリングに通い続けているという。

菅野氏は一審後、「(性的暴行の)回数が1回であり、かつ短時間のうちに終わっている」「胸部や臀部、股間等、女性の身体の中でも特に性的自由侵害の程度が高い部位には触れていない」などと主張し、事件を報じた小誌記事の流布により「社会的制裁」を受けたなどとして、「慰謝料は5万円を超えることはない」と減額を求めて控訴していた。

しかし、高裁は判決で、この主張を一蹴。精神的苦痛を被った被害者が通院治療などを受けたことや、仕事を辞めざるを得なかったことなどの諸事情を勘案すると、慰謝料100万円が「不当に高額であるとは認められない」とした。また、事件を報じた小誌記事が発売日の前日に一部ネット上に出回ったことについては、「発売されれば公になる情報がその発売前日に公になるというものに過ぎない」と指摘。「(菅野氏が)不当な社会的制裁を受けたものとは認められない」としたほか、被害者の「精神的苦痛が慰謝されたとも認められない」とした。

高裁の判決後、被害者は、「性暴力における民事裁判は、名前を見ることも辛い加害者本人とやり取りをせねばならず神経を摩耗します」「心からの反省の言葉が得られないことでより傷つきます」と語った。

一方の菅野氏は小誌の取材に、「謝罪の有無に関しては被害者側女性と私の認識が異なる。なぜならば、13年に本人納得の上、謝罪文に署名捺印しているからだ」と主張した。

だが、同氏が謝罪文を仲介者に預けたのは12年で、それは結局被害者に渡されていないため、「本人納得」どころか、被害者はそれを見てすらいない。14年には形式的な謝罪文を出したが、被害者は「納得したなど一言も言っていません。むしろ、謝罪文には『押し倒すなどの性的な行為』と書いているのに、『抱きついた後、のしかかった行為』と言い換えてみたり、菅野氏はその後もとても反省しているとは思えない言動を繰り返しています。さらに謝罪文の写しも紛失して、後に菅野氏側の弁護士が開示を求めてきた」と述べている。

その後の二次加害(セカンドレイプ)の問題もある。一審判決後、菅野氏側の三浦義隆弁護士が、菅野氏の依頼だとして事実と異なる一方的な解釈に基づく裁判についてのブログ記事を公開し、被害者は多くの誹謗中傷にさらされた。このため被害者は、昨年8月に千葉県弁護士会に三浦弁護士の懲戒を請求。同弁護士は12月に答弁書を出し、「過度に傷ついた菅野氏の名誉を回復する必要性」から記事を書いたなどと主張している。自らの名誉を優先して起こした二次加害についての係争は、いまだ決着していない。

『週刊金曜日』取材班

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