東電強制起訴裁判第4回公判で子会社社員が証言 津波対策案無視の責任明白に
明石昇二郎|2018年3月22日5:14PM
東京電力・福島第一原発事故の刑事責任を問う強制起訴裁判の第4回公判が2月28日、東京地裁(永渕健一裁判長)で開かれた。
この日は、同原発に最大15・7メートルの津波が襲来するとのシミュレーション結果を同事故の3年前にまとめ、東電本社に伝えていた東電子会社「東電設計」社員の久保賀也氏が証人として出廷。同シミュレーションは単なる「試算」として行なったものではなく、当時の原子力安全・保安院から求められていた「耐震バックチェック」業務の一環で行なったものだったと証言した。
同シミュレーションは、原発が建つ海抜10メートル部分の敷地(10メートル盤)に高さ10メートルの巨大防潮堤を建て、敷地への津波流入を防ぐというもの。だが、海抜4メートル部分(4メートル盤)には非常用ディーゼル発電機を冷却するための海水ポンプがあり、同ポンプの被水も同時に防ぐため、東電設計では4メートル盤に高さ16メートルの防潮堤を建てる案も用意していた。
これに対し東電本社側は、解析方法を変更することで「津波高を低減できないか」と要請。しかし東電設計の久保氏は「土木学会のやり方に則ってやっているので、それはできない」と拒否していた。
久保氏は、日本原子力発電・東海第二原発の津波シミュレーションも担当。これに基づき津波対策を講じていた東海第二原発は辛うじて大事故を免れ、何ら対策を講じなかった福島第一原発は大事故に至っていた。
この日の公判では、東電設計が作成したアニメーション画像も公開された。作成されたのは、福島第一原発事故発生から3年後の2014年10月頃。東京地方検察庁が下した「不起訴」処分の正当性を審査していた東京第五検察審査会が、一度目の「起訴相当」議決をした14年7月の直後である。
アニメの内容は、巨大防潮堤を建てても津波被害は防げなかったという「試算」に基づくもの。完成後、東電社員を通じて東京地検に提出されたのだという。「起訴相当」議決を受け、東京地検が原発事故の再捜査をしていた時期とぴったり重なる。
つまりこのアニメは、被告らの刑事責任を否定すべく、東電本社が東電設計に「試算」させたものだった。そして東京地検は翌15年1月に再び不起訴処分とし、その半年後の15年7月、東京第五検察審査会が二度目の「起訴相当」議決をして、東電旧経営陣3人の強制起訴が決まっていた。
被告側は、久保氏を証人とすることに反対していたのだという。その理由が大変よく理解できる公判でもあった。
(明石昇二郎・ルポライター、2018年3月9日号)