福島と「フェイクニュース」
明石昇二郎|2018年3月28日6:42PM
『週刊金曜日』3月9日号で書いた拙稿「福島で胃がんが多発している」が反響を呼んでいる。まずはこの場をお借りして、読者の皆様に感謝の気持ちをお伝えしたい。
筆者は1994年より、「疫学調査のできるルポライター」を自任している。そんな筆者が、国の「全国がん登録」(全国がん罹患モニタリング集計)データを検証したところ、東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原発事故が発生した2011年以降、福島県で胃がん患者が多発していることがわかった。
患者数が単に増えているだけではない。統計的に有意な多発状態にあった。「統計的に有意な多発」とは、確率的に「偶然」とは考えにくい多発のことを意味する。しかしこの事実は、国立がん研究センターからも福島県からもいまだ公表されていない。
福島県当局は「胃がん多発」の事実を把握していた。いつ公表するのかと訊ねると、
「いずれ公表する」
という。
だが、いつまでも内緒にしておく類いの話ではない。データを集めるだけで傍観しているのであれば、国費と人材を投入し、手間をかけて「全国がん登録」事業を実施している意味がなくなる。しかも、だ。
福島県のがん登録データを精査してみると、注意を払うべきは「胃がん」だけではなかった。被曝労働で労災認定する際の対象疾患である「悪性リンパ腫」や「白血病」も増えている。
記事ではデータの出典も明らかにした。つまり、疫学や統計学の基礎知識があれば、誰でも記事の真贋を確かめることができる。筆者が行なった検証作業とは、全国の「胃がん年齢階級別罹患率」と福島県の同罹患率を比較し、「標準化罹患率比」とその「95%信頼区間」を求める――というものだ。
実は、この記事の内容を否定しようとしたり、文句をつけてきたりする人は相当いるだろうと予想していた。福島第一原発事故程度の環境汚染や被曝では健康被害は発生しないとする「安全キャンペーン」を繰り広げている医学者や核問題の科学者らにしてみれば、決して無視することのできない“彼らの沽券に関わる”内容だからだ。
しかし、予想外の事態が起きる。
記事で検証したのは「罹患数」と「罹患率」であり、こうした数字はがんが見つかった時点で「患者発生」とカウントされる。だが、死亡時にカウントする人口動態統計の「がん死亡率」データを持ち出してきて記事の信憑性に疑問符をつける自称「科学者」がインターネット上(=ツイッター)に現れたのだ。
そこで、疑問が生じた。この人は、そもそも記事を読んでいないのではないか?
読んだ上で、脊髄(せきずい)反射的に批判してきたのだとすれば、この「科学者」氏は注意力散漫であるとしか言いようがない。
揚げ句は、こうした「科学者」氏のツイートを根拠に、「悪質なデマだ」「風評被害で福島をつぶしたいのでしょうか?」と難癖をつけてきた自称「ニュースサイト」も出現した――と、『週刊金曜日』の担当編集者が教えてくれる。
そのサイトは、
「当該件は大学から抗議していますが謝罪訂正はなし」
とする「大学病院 医師」のコメントも載せているのだが、担当編集さんに確認すると、
「そんな抗議は編集部に一件も来ていない」
という。
記事を読まずに行なう批判や、嘘の抗議話をでっち上げての批判までは、全く予想していなかった。
担当編集さんによれば、
「これが今の『フェイクニュース』なんです」
とのことである。
なので、自称「科学者」氏の名前や、自称「ニュースサイト」の名前は、わざわざ紹介してあげないことにする。
自らの主張を否定する事実を快く思わない方もきっといることだろう。だが、抗議なりなんなりする際は、せめて記事をご覧の上、してほしいと願う。的外れな批判や嘘で、事実を否定することはできないのだから。
(あかし しょうじろう・ルポライター)