作家を殺す「著作権法改正」
明石昇二郎|2018年3月30日7:16PM
日本政府は2月23日、著作権法改正案を閣議決定し、国会に提出した。作家やジャーナリストをはじめとした著作権者を置き去りにしたまま、著作権法が改正されようとしている。しかもその改正内容は、著作権者に対して一方的に犠牲や面倒を強いるばかりか、外交問題まで引き起こす恐れがあるものだ。2017年5月12日号の記事を緊急配信する。(肩書き等は発表時のまま)
文化庁は、著作権者の許諾を得なくても、市販されている書籍を一冊丸ごとデジタルスキャンしてテキストデータ化し、インターネットで検索できるよう、著作権法を改正する方針を固めた。現在、こうした「書籍の全文スキャン」が許されているのは国立国会図書館のみだが、今後は民間業者であっても許可する考えなのだという。
そう聞いて、2009年に起きたある事件のことを思い出した。日本をはじめ、世界中の著作権者が巻き込まれた「グーグルブック検索和解」事件のことである。
世界にケンカ仕掛けたグーグル「剽窃」事件
グーグル社のブック検索機能「グーグルブックス」では、検索して表示された書籍を販売している書店や、所蔵している図書館をタダで知ることができる。グーグル社は10年の段階で、英語ばかりか日本語、ドイツ語、フランス語まで含む多種多様な言語の書籍を1000万冊以上、デジタルスキャンしていた。
が、あろうことかグーグル社は、著者や出版社の許可を一切得ないまま、書籍の全文デジタルスキャンを繰り返し、その一部をネット上に無断公開していたのである。
さらにグーグル社は、この行為を咎める裁判が米国で起こされたのを逆手に取り、わずかな解決金を支払うことで書籍のスキャンデータをネットで販売しても構わないとする「和解案」を、世界中にいる作家らに一方的に突きつけてきた。これを「グーグルブック検索和解」事件と言う。
裁判の舞台となった米国のニューヨーク南部地区連邦地裁には、この和解案の成立を阻止すべく世界各国の著作権者から異議申し立てが殺到し、オブジェクションは最終的に400通にも及んでいた。日本からは、本稿の筆者をはじめ日本ペンクラブなどから複数のオブジェクションが提出され、中にはドイツ政府やフランス政府など、国家として異議を申し立てたところまであった。
これに対してグーグル社や米国作家組合などからなるグーグル陣営は和解案を微調整し、面倒な日本やドイツ、フランスなどの著作権者を和解案から外し、強行突破しようとする。「グーグルブックス」担当エンジニアリング・ディレクターのダン・クランシー氏は、修正和解案が連邦地裁に提出された直後の声明の中でこんなことを言っていた。
「和解案を修正したことによって、多くの国々で(ブック検索サービスが)提供できなくなったことをグーグル社は残念に思っている。しかし、全世界の本へのアクセスを目指すという当社の積年の使命を果たすために、世界中の著作権者とともに(ブック検索事業に)取り組み続けることを楽しみにしている」
しかし11年3月22日、同連邦地裁はグーグル和解案を却下した。同連邦地裁のデニー・チン判事は、
「著作権者の許可なくGoogleが多くの利益を得るこの修正和解案では、同社の立場が極めて有利になり、公正さや妥当性を欠く」(「ITpro」11年3月23日)
と判断。和解案は「行き過ぎ」であると裁定したのだった。
この決定を受け、グーグル社側は次のような“敗戦の弁”を語っている(11年3月22日付「ロイター通信」より。筆者訳)。
「明らかに期待はずれの判決ですが、裁判所の決定文を精査して、(今後の)選択肢を検討するつもりです」
つまり、まったく懲りていなかった。そして次に日本の作家たちの前に現れたのが、今回の「著作権法改正案」なのである。