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作家を殺す「著作権法改正」

明石昇二郎|2018年3月30日7:16PM

「グーグルブックス」の完全なるパクリ

ドイツの国を挙げての「グーグル和解案」反対運動の拠点となった同国ハイデルベルク大学。(撮影/明石 昇二郎)

同法の改正を検討してきたのは、文化庁が「文化審議会の著作権分科会小委員会」内に設けたワーキングチーム(WT)。だが、このWTには著作権者の利益を代表する者が1人も入っていない。しかも文化庁は今回の法改正に際し、「グーグルブック検索和解」事件で異議を唱えた日本の著作権者や著作権者の団体(日本ペンクラブなど)に対して一度もヒアリングをしていない。

文化庁の目論見どおり、現在の出版市場に悪影響を与えず、同市場の発展に寄与できるかどうかについても、確証はない。同法の改正で確実に利益を上げられると思われるのは現在のところ、グーグル社をはじめとしたネット検索業者だけである。これにより、作家やジャーナリストが割の合わない職業になって淘汰されれば、新しい著作物が生まれなくなることにもなりかねない。

差別や名誉毀損等の問題により絶版になっている本が、全文デジタルスキャンによって蘇り、再拡散してしまう懸念もある。一度、ネット上で広まってしまえば、取り返しがつかない。そうなった場合、誰がその責任を負うのか。

そもそも、今回の法改正で想定されている書籍検索のスキーム(事業の枠組み)は、文化庁や同庁WTのオリジナルではなく、物議を醸した「グーグルブックス」の完全なるパクリである。そしてこの事実は、今回の著作権法改正案はグーグル社によるロビー活動の“成果”なのではないか――との疑念を生じさせる。

ところで、グーグル社の持株会社「アルファベット」は、年間9兆円規模の売り上げを叩き出している多国籍企業であり、タックスヘイブン(租税回避地)を駆使した“節税企業”としても知られる。筆者はかつて、グーグル社を利用している日本国内の広告主にお願いして、グーグル社からの請求書を見せてもらったことがある。

請求元は「グーグル・アイルランド」。所在地は本社のある米国・シリコンバレーではなく、アイルランドの首都ダブリンになっていた。ダブリンといえば、世界的に有名なタックスヘイブンである。

つまり、日本のユーザー向けサイトに載る日本人向け広告で荒稼ぎしたカネは、日本の国税当局の前を素通りし、アイルランドのグーグルへと送金されているのだ。

その証拠に、請求書の下段にはこう明記されていた。

「弊社の広告サービスは日本国外を拠点とするため、消費税の課税対象とはなりません」
(筆者注・16年10月以降は「クロスボーダー消費税」の課税対象になった。ただし、納税義務があるのはグーグル社ではなく、日本国内の広告主である)

アイルランドへの送金は、高い手数料を取られる銀行経由ではなく、クレジットカード決済の形で行なわれる。だから、法人税も日本に納めていない。

となると文化庁は、日本でまともに税金を納めようとしない会社のため、わざわざ著作権法を改正して書籍の無断デジタルスキャンを許し、インターネットでの「書籍全文検索サービス」という民間事業のお先棒担ぎをしていることになる。いったい、文化庁とグーグル社の間で何があったのか。

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