企業を超えた同一労働同一賃金を
高橋伸彰|2018年4月2日6:35PM
これに対し労働経済学者の熊沢誠氏は日本の企業社会で非正規が待遇面で差別され、正社員も長時間労働の果て過労死にまで追い込まれているのは、労働組合が企業別の枠を超えられずに「労働条件の規範や標準というものをついに社会的な規模で樹立することができなかった」(『労働組合運動とはなにか』)からだと批判する。
確かに、同じ産業に属する企業同士は生き残りを賭けて不断の競争を展開している。
だが、同じ職務に就く労働者の賃金を他社より低くしてまで競争に勝とうとするのは、公正な競争とは言えない。
シュンペーター(『経済発展の理論』)がいうイノヴェーションの例を挙げるまでもなく、企業の競争力は新しい組織や製品あるいは生産方法や販路の革新から生まれるのであり、労働者の賃金差別から生まれるものではない。
むしろ、企業の枠を超えて同じ産業における同じ職務の同一賃金を実現したほうが労働者の「不合理な待遇差」が解消され、公正な競争にも資するはずだ。
ところが、厚労省が「働き方改革実現会議」で示した「同一労働同一賃金ガイドライン案」をみると、企業内の「不合理な待遇差」さえ解消できるのか疑問が湧いてくる。
連合の神津里季生会長は同案を「職場の労使の協議を進める上で有益」だと評するが、差別が「問題とならない例」と「問題となる例」の数を比較するだけでも、同案が使用者に有利で非正規労働者に不利なことは一目瞭然だ。
実際、同案に示された基本給の差別事例では、正規と非正規の待遇差について「問題とならない例」が全10例中7例を占めるのに対し、「問題となる例」はわずか3例にすぎない。
多様な相違を超えて連帯しなければ労働者は使用者と対等に交渉できない。その重要な一歩が企業内はもちろん、企業を超えた同一労働同一賃金にあることを連合は改めて認識すべきだ。
そうでなければ組織率の低下も、労働者の分断も止まらない。
(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。2018年3月9日号)