すごい27人
小室等|2018年4月2日6:48PM
二七人のミュージシャンと一人の詩人が集まった。
谷川俊太郎作詞、小室等作曲の「真実・事実・現実 あることないこと」。俊太郎さんの言葉をテキストにして二七人が吠えた。理不尽に向かって……。二七人を列記しよう。
アン・サリー、李政美、伊藤多喜雄、うじきつよし、シカラムータ(大熊ワタル、こぐれみわぞう)、河野“菌ちゃん”俊二、坂田明、沢知恵、白崎映美、谷川賢作、トリ音、中川五郎、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)、パギやん(趙博)、橋本学、*はなおと*(安藤孝人、仙波明夏)、HaLo、ΡΟΕ(朴保)、牧原正洋、良元優作、吉野弘志、六文銭’09(及川恒平、四角佳子、こむろゆい、小室等)。
できあがりはイントロなしで唐突に歌から始まる。
ほんとをうそにするのはコトバ
うそをほんとにするのもコトバ
コトバはヒトのつごうでかわる
うそがほんとのかめんをかぶり
うそのすがおはやみのなか
ここまでの、いわゆるΑメロの部分が終わると場面はラップに変わり、二小節ずつ歌い継がれる。
一つしかない『真実』 言葉で二つの「事実」に分裂(うじきつよし)
ほんとの事実と代わりの事実(*はなおと*)
二つの事実が言葉のおかげで〈現実〉(アン・サリー)
それがじりじり侵し始める真実(中川敬)
黒なのか白なのか 天は知っているはず(坂田明)
地だっておそらく知っている でもおのれはどうか(伊藤多喜雄)
他人の言葉の網に絡め取られて(パギやん)
自分の言葉がもがいている(ΡΟΕ)
もちろん、圧倒的な力で二番へと継がれていく。
わずか二小節の参加に、ミュージシャンたちは絶大な個性を発揮した、すごい。
「布川事件」の桜井昌司さん、杉山卓男さん(故人)、「足利事件」の菅家利和さん、無期懲役だったが再審で三人とも無罪確定。再審決定により釈放された「袴田事件」(死刑判決)の袴田巖さん。仮釈放中で再審を求めている「狭山事件」(無期懲役)の石川一雄さん。獄中生活は五人あわせて一五五年。五人は互いを獄友と呼び合う。金聖雄監督がそれを映画『獄友』として完成させ、歌は主題歌となる。
非人間的な裁判はおかしいと吠えたミュージシャンたちは、吠えついでに、ほぼ全員が自らの楽曲を一曲ずつ提供、主題歌(サントラも含む)+コンピレーション二枚組アルバムも完成した。
すごい。
(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2018年3月9日号)