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表現活動に脅威をもたらす東京都の迷惑防止条例改正案

田島泰彦|2018年4月9日6:41PM

3月19日、東京都議会警察・消防委員会で条例改正案撤回を求める大山とも子都議(日本共産党)。(撮影/薄井崇友)

森友問題が重大な局面を迎えるなか、市民やメディアの表現活動に多大な脅威をもたらしかねない法改正の動きが進んでいる。東京都の迷惑防止条例改正案である。都議会の警察・消防委員会は今月22日、盗撮やつきまとい行為への規制を強化する東京都迷惑防止条例改正案を、共産党を除く会派の多数で可決し、29日の本会議でも可決、成立する見込みだ。

今回の改正案では、盗撮の規制場所等の拡大・強化とならんで、つきまとい行為の追加、拡大が提案されており、これが表現の自由や取材の自由などとの関係で特に議論を呼ぶことになったのである。

もともと迷惑防止条例は、ねたみ、恨み等の「悪意の感情」に基づく行為を禁止、規制しているのだが、恋愛感情等の好意の感情によるつきまとい行為等を禁止するストーカー規制法とは性格や対象が異なる。後者は行為や行為者がかなり限定されているのに対して、前者では行為はあいまい広範であり、規制対象となる人も広く市民やメディアに及ぶおそれがある。

条例自体がそういう危うさを抱えているにもかかわらず、今回の改正は次のような提案を記している。

従来禁止対象とされてきたのは、「つきまとい」「粗野・乱暴な言動」「連続電話」「汚物などの送付」の4類型だったが、これに以下の3類型を加えることが示されている。「監視していると告げること」「名誉を害する事項を告げること」「性的羞恥心を害する事項を告げること」。また、従来の行為類型の中に、一つは、つきまとい等の中に、新たに「みだりにうろつくこと」も加え、もう一つは、連続電話だけでなく、「電子メール・SNSなどの連続送信」も追加する措置が取られる。さらに、罰則も重くする。

【警察官の裁量縛る手段なく 濫用禁止にも具体性なし】

今回の法改正によって、報道機関の取材・報道の自由は重大な制約を被る危険が生ずる。従来からつきまといや住居等に押し掛けることが禁止され、張り込みなどの記者の取材活動が制限されるおそれがあったのだが、「みだりにうろつくこと」の追加は、その危険をさらに高めることになる。

また、「監視していると告げること」の追加類型の導入は、報道機関の権力監視機能を支える取材そのものを正面から否定しかねない危険な企てである。政治家や役人の不正等を暴くために取材や監視をし、報道することは報道機関の重大な任務である。条例案では、告げるだけでなく、「知り得る状態に置くこと」でもいいので、取材のみならず、報道自体も規制の枠に収められる危険がある。また、規制の対象は報道機関にとどまらず、市民団体等による取材や調査も含まれる。

市民の表現や抗議活動にとってもっとも重大な影響を受けるおそれがあるのは、「名誉を害する事項を告げること」の追加類型である。刑法上、名誉毀損罪はある程度厳格に枠づけられ、表現の自由のための免責も定められているのに対して、条例改正案では、公然性や告訴も不要で、社会的評価の低下という物差しなしに主観的な名誉感情の侵害で成立し、真実性の証明等の免責の定めもないため、政治家や官僚、社会的強者に対する批判的な言論や市民のデモ、抗議など正当な言論や活動が規制され、抑圧される危険がある。

さらに、条例案上は、「知り得る状態に置くこと」でもいいと記されているのでビラやポスター等でも対象となるし、また当然、SNSの発信も射程に入る。

当局者側は、条例の規定上、「正当な理由なく」の制限もあるし、濫用禁止の規定があるなどと説明するが、前者は現場の警察官の広範な裁量を縛る手段はなく、後者は具体的な担保や制度抜きでは何の保証にもならないことは言うまでもない。

特定秘密保護法や共謀罪同様、今回の迷惑防止条例の改正は表現の自由と民主主義を根底から危うくする代物であることは確かだ。

(田島泰彦・上智大学教授、2018年3月30日号)

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