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アベノミクスは官僚的な知恵の結晶物

佐々木実|2018年4月12日5:44PM

4月8日に任期満了を迎える日本銀行の黒田東彦総裁の再任が衆参両院の本会議で可決、承認された。黒田総裁を支えてきたふたりの副総裁、中曽宏氏、岩田規久男氏の後任には日銀の雨宮正佳理事と早稲田大学の若田部昌澄教授が就任、日銀が大規模な金融緩和路線を継続することが確定的となった。

2012年12月に第2次安倍政権が発足して以来、日銀は安倍晋三首相が掲げる経済政策「アベノミクス」の中心的役割を担わされている。異次元金融緩和は安倍首相本人が強くこだわって実現させた政治主導の政策だが、政治指導者が日銀の金融政策を政府の最重要課題と位置づけるのは異例の出来事だった。

異次元金融緩和の応援団となったリフレ派の人々が唱えた「デフレは貨幣的現象である」というフレーズは、新自由主義の教祖的存在だったミルトン・フリードマンが繰り返し唱えた「インフレは貨幣的現象である」という言葉を彷彿とさせた。フリードマンが世界恐慌の研究によってマネタリズムの主張を確立したのを真似るように、日本のリフレ派は昭和恐慌の研究に執心してもいた。

ともあれ、「デフレは貨幣的現象である」という主張は現実によって反証された。大規模金融緩和は理論的根拠を失ったまま、継続されるわけである。

根拠薄弱なインフレ・ターゲット政策のみならず、アベノミクスは総体としてもその政策理念が明瞭でない。マネタリズム的な発想に基づく金融政策、ケインズ的な考えに基づく財政政策、さらには新自由主義的な規制緩和政策。まるでごった煮である。

時事通信社の解説委員の軽部謙介氏は『官僚たちのアベノミクス』(岩波新書)で、アベノミクスの原点を探っている。

日銀が人事という飛び道具によって安倍首相に屈服させられた一方、民主党政権と折り合いが悪かった霞ヶ関官僚たちは自民党が政権党に返り咲いたことで活性化した。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用資金が株価浮揚のため投入されるようになったのも、官僚が活性化した成果のひとつである。

延べ約120人に取材しただけあって、『官僚たちのアベノミクス』は異形の経済政策がどのように生まれたかを関係したプレイヤーたちの証言に基づき明らかにしている。軽部氏は2012年12月の安倍内閣組閣時の官僚の様子を次のように描いている。

〈二六日の組閣、二七日の各省官房長会議などを通じて、霞ヶ関官僚たちは安倍政権の本気度、仕事の速さを感じた。もともと自民党とは親和性が高いだけに、真面目な官僚たちの中には日本経済を立て直せるかもしれないと内心の昂りを感じた者も少なくなかった〉

アベノミクスに統一性ある政策理念や経済思想が見られないのは、それが官僚的な知恵の結晶物だからでもあるのだろう。

安倍政権の求心力の源となったアベノミクスが日本経済を規定してもう5年を過ぎた。日本経済に及ぼした影響のみでなく、むしろアベノミクスが社会に及ぼした政治的効果を見極めるべき時期なのかもしれない。

(ささき みのる・ジャーナリスト。2018年3月23日号)

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