「いわおのまどろみ」
小室等|2018年4月12日6:15PM
李政美さんは「自由に見ること、聴くこと、話すこと、歩くこと、心ふるわすこと、笑うこと、泣くこと。冤罪とは、そのすべてが奪われるということ」とコメントを添えて、板橋文夫さんとの素晴らしいピアノとデュオの「ありがとういのち」(作詞曲/ヴィオレータ・パラ、日本語詞/高橋悠治)を寄せてくれた。
パラ(一九一七年生まれ、チリの反体制女性歌手)のこの「Gracias A La Vida」という曲は民衆によってつくられる「ヌエバ・カンシオン」(新しい歌)として六六年に生まれた歌。六七年にパラは拳銃で自死を遂げ四九歳の若さでこの世を去るが この歌はその後も七〇年に政権樹立した人民連合政権の下で歌われ、七三年に軍事クーデターによるピノチェト圧政下においても弾圧をかいくぐり、反独裁勢力に歌い継がれてきた。チリの民衆にとっては第二の国歌とも呼ばれている。ちなみに、昨年はヴィオレータ・パラ生誕一〇〇周年だった。
うじきつよしさんは「普通にうたうことさえできなくなるような世の中がすぐそこまできていると思う。次の世代が自由に音楽や芝居ができなくなるなんて最悪。だからせめておかしいことをおかしいと歌いたい」と言って、「子供ばんど」の演奏する「自由」を提供してくれた。「子供ばんど」のアルバム『ロックにはまだやれることがあるんじゃないのか』の一曲目に入っている、うじきさん作詞作曲のオリジナル楽曲だ。
こんな塩梅で、二十数名のミュージシャンが声と楽曲と自らのスキルを寄せて、二枚組CD『真実・事実・現実 あることないこと』(主題歌、コンピレーション、サウンドトラック)が完成したことは前回報告した。
なぜみんなが集まったか。汚名を着せられたまま冤罪で苦しむ当事者を応援しようという気持ちが端緒なのはもちろんだが、国会で罷り通っている大嘘に怒ってもいるからだ。総理大臣と副総理の言葉のすり替えやのらりくらりとした姿勢は、日本の検察と酷似してる。コメントを全部紹介したいが紙幅が足りない、でもう少し。
「自分たちが自由に音楽ができるというのは素晴らしいことで、それはどういう世の中なのかを考えればいいと思う」。坂田明さんのドボルザーク「家路」が泣かせる。
「ミュージシャンは“伝書鳩”の一面もあります。このCDも全国各地に持って行きます。オールスターキャストなので『なにこれ、すごい!』と言われるのが、今から楽しみです」と言う谷川賢作さん書き下ろしのピアノ曲、「いわおのまどろみ」は袴田巖さんのことだよね。
(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2018年3月23日号)