前川氏講演問題に寺脇研氏が警鐘
文科省の調査は「国家の教育支配」
土岐直彦|2018年4月19日11:42AM
元文部科学省官僚の寺脇研氏が3月26日、「『忖度』官僚行政に切り込む」と題し京都市内で講演(「戦争をさせない左京1000人委員会」主催)した。前文部科学事務次官の前川喜平氏が名古屋市立中学校で講演したことをめぐる文科省の問い合わせ問題と、森友「決裁文書」改竄事件を取り上げ、これによる国家公務員への信頼低下で国家や社会の秩序が壊れる瀬戸際にあると警鐘を鳴らした。
文科省は3月初め、自民党2議員からの照会を受け名古屋市教育委員会に対し、前川氏が天下り問題で辞職したことを挙げつつ講演目的や講演データ提供を求めた。
寺脇氏は文科省が一般的に色々と調べることはあっても、一つの授業を狙い撃ちにしてやることは戦後初めてだと指摘。戦前の反省の上に立って戦後は国家と教育は切り離されてきたが、今回の事態は「国家の教育支配」と断じた。「文科省でこんなこと、1回もやったことはない。政府に逆らったらとんでもない目に遭うという、自民議員による恫喝が行なわれた」。
日本の教育では、教科書検定と学習指導要領はあるが、どういう教育を行なうかは各自治体に委ねられている。名古屋の問題で日本中の教委が文科省を信用しなくなりかねないとも寺脇氏は危惧。新年度から小学校で、来年度からは中学校で道徳の授業が始まるが、これに政治が介入する可能性にも言及する危機感を示した。
それ以上に問題は財務省だと寺脇氏。公文書・決裁文書は政府の意思決定過程の「キモ」。これを改竄したら国民には政治が分からなくなる。「霞ヶ関」が信用できなくなれば、全国の自治体公務員も信用を失う事態になりかねず、「こんなに危機感を覚えたことはない」。官邸が幹部人事を握った結果、官僚社会は官邸を忖度して、上の人は浮足立ち、下の人は嫌気がさし、どうしたらよいかわからなくなっている体たらくだという。
(土岐直彦・ジャーナリスト、2018年4月6日号)