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相次ぐ不祥事で「安倍一強」に陰り
社会保障費と増税の行方は
吉田啓志|2018年4月24日5:00PM
安倍晋三首相は、社会保障費の伸びを抑えるための新たな枠組みをつくる考えを表明した。経済成長重視のアベノミクス頼みでは、政府の財政健全化目標を達成できないことがハッキリした。しかし安倍政権は、学校法人「森友学園」を巡る財務省の公文書改竄問題など相次ぐ不祥事に揺れている。体力を奪われつつある政権に、どこまで国民に負担増を迫ることができるのか――。
首相が社会保障費抑制に踏み込んだのは、3月29日の経済財政諮問会議の場だった。借金をせず政策経費を賄えているかを示す「プライマリーバランス(PB)」の黒字化に向け、「PB黒字化目標と毎年度の予算編成を結びつける枠組みを検討する」と述べた。
政府は15年6月、PBを20年度までに黒字化する目標を掲げた。社会保障費は、手をつけなければ高齢化などで毎年6000億~8000億円程度膨らむ。そこで16年~18年度は毎年度の伸びを5000億円に抑えることにした。これらは一定の効果をもたらした。
それでも、当初予算は削りながら補正予算で大盤振る舞いしたツケで、18年度の歳出見通しは約2・5兆円悪化。さらに、大甘に見積もっていた税収が想定を約4・3兆円下回った上、消費増税の再延期で約4・1兆円の税収を失った。
目標では18年度のPB赤字を5・6兆円程度に抑えるはずだったのに、実際は約3倍の約16・4兆円に達した。
20年度の黒字化目標は、首相による昨年秋の消費税増税分の使途変更表明とともに撤回。その代わり、18年6月に新たな財政健全化計画を策定するとした。そう約束した手前、首相としても社会保障費抑制のための枠組みづくりは口にせざるを得なかった。
首相の言う「枠組み」とは、従来同様、社会保障費の伸びを一定に抑えるための縛りと受け止められている。ところが、29日の諮問会議と同じ日に開かれた自民党の財政再建に関する特命委員会では「医療崩壊を招く」「とんでもない議論だ」といった不満が続出した。16年~18年度のカットに加え、小泉政権時代に毎年社会保障費の伸びを2200億円分抑えたことに懲りた議員は少なくない。厚生族の1人は「2200億円分圧縮し続けたことが、どれだけ社会保障を傷めたか」と吐き捨てる。
これまでの「安倍一強」の下なら、族議員らの抵抗など遠吠え同然だった。それが、働き方改革を正当化するための厚生労働省による不適切データの使用、財務省の公文書改竄問題、防衛省の日報隠しなどが相次ぎ、首相の威光にも陰りが生じている。官邸肝いりの働き方改革関連法案は、6日に閣議決定されたが、自民党は3日の総務会でいったん了承を先送りし、首相を牽制した。三たび社会保障費に枠をはめようとする財務省に、自民党幹部は「どの口が言うんだ。誰のせいで我々が苦しんでいると思っているのか」と冷ややかだ。
【消えない増税延期の予測】
「三度目の正直という言葉もあります」。3月2日の参院予算委員会で、安倍首相はこれまで自身が二度延期した消費増税についてそう語った。次こそ増税ともとれる答弁だった。とはいえ、昨年の衆院選で首相は、増税に「リーマン・ショックのようなことがない限り」との条件を付けている。依然、「経済成長と財政健全化の両立」を主張しており、政官界では「三度目の増税延期をするのでは」と読む人も多い。
アベノミクスの限界が囁かれるなか、これまでのように過大な税収見積もりによる、粉飾に近い財政健全化目標は策定しづらいのが現状だ。ただ、来年は統一地方選や参院選が控えている。与党内には、増税や社会保障費の削減といった国民に痛みを強いる政策に対する懸念が根強くある。対外的に財政健全化の放棄はできず、社会保障費の抑制目標は掲げざるを得ないとみられるものの、厚労省幹
部は「問題はどれだけ実効性を伴ったものにできるか。満身創痍の財務省のお手並み拝見だ」と語る。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2018年4月13日号)
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