横畠内閣法制局長官に執着する安倍政権
西川伸一|2018年4月26日6:43PM
内閣法制局でまた興味深い人事が行なわれた。近藤正春内閣法制次長の定年を来年3月末まで1年延長するというのだ。人事院規則で内閣法制次長の定年は62歳と決められている。より正確には、62歳に達して最初の3月31日が定年退官日となる。
近藤氏は1956年1月生まれなので、この3月31日に定年退官するはずだった。同日付の発令で、決め手は「来年4月30日に予定される天皇陛下の退位に関する憲法問題に精通しているため」とのことである(3月31日付『中国新聞』)。
私は今回の人事には別の理由があると考える。以前の当コラムで紹介したように、内閣法制局幹部の出世コースは慣例的にこう決まっている。総務主幹→第二部〜第四部(審査部)のいずれかの部長→第一部(意見部)の部長→次長→長官。次長は必ず長官に上がる。次長以下の職員は一般職国家公務員なので定年がある。一方、長官は特別職国家公務員ゆえ定年はない。定年を延長しなければ、近藤氏は長官になれなかった初の次長になってしまう。
実は次長の定年延長には前例がある。安倍晋三政権が上記の慣例を破って、駐仏大使だった小松一郎氏を長官に抜擢したのは、2013年8月のことである。当時の次長は横畠裕介・現長官である。1951年10月生まれの横畠氏は、14年3月31日で定年退官を迎えてしまう。
そこで同日付で定年を1年延長する人事が決められた。健康面での不安を抱える小松長官を支えるという理由付けもできた。その小松長官が14年5月に退任し、横畠氏が長官に、第一部長の近藤氏が次長に就いた。
近藤氏は定年延長によって来年3月までに長官に上がればよく、横畠氏はそれまで長官に留まれる。すると5年近くの異例の長期在任になる。
憲法解釈を変更し集団的自衛権行使を可能にした「功労者」である横畠長官に、政権が寄せる信頼は厚い。内閣法制局の中では「昭和の高辻、平成の横畠」と言われているらしい。高辻正己長官は7年8カ月在任し、佐藤栄作政権を支えきった。安倍政権も横畠氏を手放したくなかろう。
ただ、横畠氏の長期在任によって幹部人事が滞るのではないか。ところがそれはない。農水省出身の林徹・現第一部長は次長になれないからだ。内閣法制局には「四省責任体制」という慣行がある。長官・次長には法務省、旧大蔵省、旧通産省、旧自治省のどれかの出向者がなるというものだ(牧原出編『法の番人として生きる 大森政輔元内閣法制局長官回顧録』岩波書店)。
したがって、林氏を今年中に第一部長から退かせて、第二部長〜第四部長の3人の中から1人を第一部長とし、近藤氏の長官昇格に伴って次長に上げる人事が予想される。3人の部長のうち北川哲也第三部長は旧郵政省出身なので外れる。岩尾信行第二部長(法務)と高橋康文第四部長(大蔵)が残る。入省年次により高橋氏が上がるとしよう。1959年5月生まれの高橋氏は定年に達する2022年3月までには長官になろう。言い換えれば、近藤氏は19年4月に長官に就いても3年程度は在任できる。標準的な在職期間となり、近藤氏は面目を保てる。
横畠長官への政権の執着と近藤氏の名誉保持の観点から、今回の人事は練られたのではないか。
(にしかわ しんいち・明治大学教授。2018年4月13日号)