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福岡地裁、
前川喜平氏の証人尋問認めず

西川伸一|2018年5月28日4:36PM

「白ブリーフ裁判官」として有名な岡口基一東京高裁判事のツイッターをフォローして、もう3年以上になる。そこで彼はヘイトスピーチをしばしば強く非難している。たとえば、昨年8月29日には「ヘイトスピーチは日本の恥!!! 在日外国人に対する差別も日本の恥!!!」とツイートした。まったくそのとおりだ。

よもやヘイトスピーチが裁判所内でまかり通っていようとは。本誌4月20日号の「論争」欄に掲載された、裁判所職員による投稿を読んで強い衝撃を受けた。裁判官は選挙を経ない非選出部門である。だが、彼らは選出部門である国会が成立させた法律に対して、違憲の判断を言い渡すことができる。その際、裁判所が国会の意思を覆す根拠としてすがるのが「国民の信頼」である。歴代最高裁長官は裁判所向けのあいさつのたびに、この言葉を必ず挿入してきた。ヘイトスピーチはこれと真っ向から対立する。

さて、去る5月10日に福岡地裁小倉支部(鈴木博裁判長)は、前川喜平・前文部科学事務次官の証人尋問を認めない決定をした。2013年12月に九州朝鮮中高級学校の卒業生らが、国が朝鮮学校を高校無償化の適用対象外としたのは違法だとして、国に損害賠償を求めて提訴した。原告側は09年当時大臣官房審議官として、高校無償化法の制度設計に関わった前川氏を証人採用するよう申請した。

前川氏は昨年12月に「朝鮮学校を無償化制度の対象としないとの議論はなかった。準備段階でも対象になることは関係者の共通認識だった」などと記した陳述書を裁判所に提出していた。原告側は前川氏を出廷させ、にもかかわらず対象外となったのは「政治外交的理由」だとする証言を得る方針だった。一方、国側は「事務方個人の意見にすぎない」として尋問に反対した。結局、鈴木裁判長は「これまでの審理に照らして理解でき、必要ない」と述べて、証人尋問を退けた。

高校無償化制度は民主党政権が2010年4月に導入した。当初は朝鮮学校も審査対象だった。ところが、同年11月の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による韓国・延坪島砲撃事件が起きて手続きが中断した。そして政権交代後の13年2月に、文科省は省令を改正して朝鮮学校を無償化の対象外としたのである。

裁判所の決定に先立って、前川氏は『毎日新聞』の単独インタビューに応じている(「デジタル毎日」5月9日、北九州版)。砲撃事件による審査延期については、「朝鮮学校が教員数や授業時間数など外形的基準を満たしていたのは明らかで、十分な資料は集まっていた。砲撃事件と朝鮮学校の生徒に支援金を出す話は(本来)関係ない」と答えている。

前川氏の正論は続く。「裁判所まで(政権に)忖度している」「『官製ヘイト』だと思う。政府自身がヘイトの源になり、ことさらに朝鮮学校に対する猜疑心、嫌悪感をあおっている」。我が意を得たりと深くうなずいた。

今回の決定の背景に、上述のヘイトに鈍感な裁判所の職場環境があるとは思いたくない。ただ、裁判所が「官製ヘイト」の片棒を担いだと、それこそ「外形的」に受け止められかねない。裁判所への「国民の信頼」を傷つけることにならなければよいが。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。2018年5月18日号)

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