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「香害110番」に200件超の苦情
政府の対策はピント外れ?
岡田幹治|2018年6月11日12:25PM
日本消費者連盟(日消連)など7団体が5月22日、院内集会「香害110番から見えてきたもの」を開いた。
「香害」とは、柔軟仕上げ剤など香りつき商品の成分により健康被害を受ける人が増加していること。被害者は化学物質過敏症(MCS)・シックハウス症候群・喘息・香料アレルギーなどになるが、そのうち最も深刻なのがMCSだ。
日消連が昨年開設した「香害110番」には213件もの苦情や悲鳴が寄せられた。それを受け、7団体が関係の省庁と業界に、▽香害を引き起こす製品の製造・販売をやめる、▽香りつき製品の公共施設での使用自粛を啓発する、▽保育園・幼稚園、学校での使用自粛を促し、被害を受けた子どもに学習する場を確保する――などを要望してきた。
衆院第一議員会館の会議室で開かれた集会には、全国から100人を超す参加者があり、入りきれない参加者は別室でOurPlanet-TVの同時中継を視聴した。
集会では、化学物質過敏症支援センターの広田しのぶ理事長が「センターには年間2000件を超す相談が寄せられるが、最近はほとんどが香り(ニオイ)に関するもの。重症の患者は学校・職場に行けず、結婚式や葬式に出ることもできないような苦しい生活を送っている」と報告した。
続いて二人の被害者が「音楽教室を経営していたが、生徒の柔軟剤でMCSになり、仕事と収入を失った」「高残香性の柔軟剤などが増えた5年ほど前からMCSの症状が悪化し、外出すると咳が出て呼吸困難になるような日が多くなった」などと体験を語った。
省庁担当者との質疑では、4省庁がそろって「香害やMCSは原因物質が何であるか特定されていない」ことを主な理由に、要望に対し「できない」「難しい」を連発した。
「香害問題に特化した『110番』を国民生活センターに設置することはできない」(消費者庁)、「確固たる科学的知見がない限り、成分を規制することはできない」「(柔軟剤のマイクロカプセルの材料への使用が疑われている)イソシアネートについて業界に確認したところ、過去も現在も使用していないとの回答だった」(厚生労働省)、「学校が香り製品の使用自粛を呼びかけるのは難しい」(文部科学省)、「(合法的に製造・販売されている製品について)業界に成分の開示を求めたり、規制・指導したりする権限はない」「広告・宣伝の自粛を求めるのも難しい」(経済産業省)といった具合だ。
【表示改定等で逃げる姿勢】
質疑の中で明らかになったのは、商品につける表示を改め、利用者のマナー向上を促す対策で批判をかわそうという政府・業界の姿勢だ。
消費者庁と経産省の担当者によれば、日本石鹸洗剤工業会が柔軟剤に関する「品質表示自主基準」を改定し、それに基づいて加盟各社が商品の容器包装などに「目安量通り使用しましょう」「周囲への影響も考慮して使用しましょう」という趣旨の表示をすることが検討されている。
工業会の実態調査では、目安量の2倍もの量の柔軟剤を使っている人が2割もいた。工業会や各社はウェブサイトやCMで目安量通りの使用を呼びかけてきたが、さらに容器包装などにも表示し、使い過ぎに歯止めをかけようというわけだ。
しかし、表示の改定によって香害が和らぐとは考えにくい。というのは、柔軟剤は目安通りの使用でも、化学物質に敏感な人には影響を与えるからだ。
問題は使用量ではなく、製品そのものにあるのに、この対策はそこから目をそらしてしまう。その意味でピント外れの対策といえる。
7団体はこの日の回答では全く不十分だとし、要望の実現をめざして運動を続ける。その場合、4省庁がばらばらに検討していては有効な対策を打ち出すのは難しいとみて、4省庁による連絡会議の設置を要望し、集会を終えた。
(岡田幹治・ライター、2018年6月1日号)
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