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菅官房長官、沖縄切り崩しを加速

阿部岳|2018年6月11日4:59PM

ホテルを出ようとする足を止めて、菅義偉官房長官が責任者に深々と頭を下げた。「選挙の際には大変お世話になりました」。「私を覚えているなんて」と目を丸くする責任者。菅氏はこの細やかさとこわもての両面を使い分け、2月の沖縄県名護市長選を制した。

このホテルは、市内有数の企業グループ傘下にある。過去の選挙でグループの支援が十分でないと見ると、菅氏や二階俊博幹事長は名護入りした際の会合を立て続けにここで開いた。辺野古新基地建設の地元で、絶対に落とせない選挙。「分かっているよね、というメッセージ」(自民党関係者)だった。

5月19日、このホテルに戻ってきた菅氏は、総力を挙げて誕生させた渡具知武豊市長と周辺自治体の長に振興策を約束。翌日には新基地建設で敵対してきた翁長雄志知事に近い人々と、非公式に会った。不祥事で辞任した元副知事、与党県議、町村長、経済人。菅氏は名護市長選の勝利を踏み台に、11月予定の天王山、県知事選に向けた切り崩しを加速させている。

市長選の勝因敗因はさまざまに分析された。最も大きかったのは「基地建設はもう止まらない」という諦め感を市民に植え付けたことだった。2期8年、反対の民意を託された稲嶺進前市長は公約を守って阻止に動いた。民主主義や法治主義を掲げるこの国の政府はしかし、工事を止めなかった。民意を踏みにじり、法律を骨抜きにし、本土から警察官や海上保安官を増派して、ついに辺野古の海の埋め立てを始めた。

民意は変わっていない。市長選直前の世論調査でも市民の3分の2が反対した。ただ、稲嶺氏に投票すれば基地を止められるという過去2回の熱は去っていた。

さらに、政府は渡具知氏に「打ち出の小槌」を与えた。子育て支援、商店街の振興。似通った公約でも、政府の全面支援を受ける渡具知氏の言葉は説得力を持って響いた。「辺野古の『へ』の字も言わない」戦略を徹底し、反対票も取り込んだ。

菅氏がこの「勝利の方程式」を再び知事選で採用するのは間違いない。新基地の護岸を着々と延ばし、海の一角を囲い終われば7月にも大量の土砂投入を始める構えだ。候補者選考も進めている。

一方、翁長氏は正念場を迎えている。手術を経て退院した5月15日、膵がんであることを公表した。頬はこけていた。「知事としての責任を全うしたい」と述べたが、再選出馬は明言しなかった。足元では新基地に反対する組織「オール沖縄会議」が県民投票の実施や主導権を巡って分裂している。前知事が新基地工事のため政府に与えた埋め立て承認の撤回という切り札をいつどうやって使えるか、めども立っていない。

率直に言って、沖縄は追い込まれている。2014年以降の大型選挙で新基地反対の候補を勝たせ続け、県民大会を何度も開き、それでも工事が止まらないから基地の前に座り込んだ。長い闘いで疲労もたまっている。沖縄の力だけで食い止められる段階はもう過ぎたのかもしれない。

政府が強行突破を続けてこられたのは、そうしても内閣支持率が下がらないからだ。今こそ本土の人々には、無関心が沖縄での不条理を可能にしていることを思い起こしてほしい。何か一つでも、行動してほしい。

(あべ たかし・『沖縄タイムス』記者。2018年6月1日号)

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