官僚の劣化は政治家の劣化
佐高信|2018年6月12日7:00AM
今度、田原総一朗と『自民党解体新書』(河出書房新社)という対論を出した。オビに「この空気をぶち破れ!」とある。「断末魔の安倍政権を見据えながら、今日の破局を招いた自民党政治を論じ尽くす」という惹句に偽りはないと自負しているが、先日『FLASH』から「官僚の劣化」について問われて、それは「政治家の劣化」と相関関係にあると強調した。
ほぼ20年前のことを思い出す。あまりの変わらなさを嘆いてである。
「佐高氏、実名で政治家やり玉」――1997年2月21日付の『読売新聞』にこういう見出しの囲み記事が載った。私が前日の衆議院予算委員会公聴会で、「政治家と官僚に対し、国民が『何をやっているんだ』と考えていることをしっかり認識してほしい」
と指摘し、権限が集中しすぎている大蔵(現財務)官僚の腐敗を厳しく批判したことを取り上げたのである。
同日付の『産経新聞』は私が当時与党だった社民党推薦の公述人なのに、行革もやらずに消費税を引き上げる予算案は“やらずぶったくり”で賛成できないと主張したことを皮肉って「党方針と食い違い、社民真っ青」と見出しをつけていた。
また、22日付の『夕刊フジ』は「かみつき屋・佐高信 国会で政治家を批判」と、私を狂犬まがいに書いている。
下品極まりない大蔵官僚の放言録
テリー伊藤の『お笑い大蔵省極秘情報』(飛鳥新社)で、匿名に隠れて彼らは、国民の上に政治家がいて、その政治家の上に大蔵官僚がいると放言している。
『諸君!』の1996年11月号で、自民党幹事長代理(当時)の野中広務と対談した私が、「『お笑い大蔵省極秘情報』のなかで大蔵官僚が、法務・検察まで自分たちが予算を縛ってるから(金融機関からの過剰接待などが発覚し、辞任に追いこまれた中島義雄などを)挙げられないんだよと発言してますね」
と問いかけると、野中は、
「やっぱり法務は、検察、警察を含めて、自分たちの名誉のためにやるべきだと思う。現にどんな理由があろうと、一千五百万円という現金が、少なくとも中島君の部屋を経由していったという事実はある。司法が何ひとつ手をつけられないというのであれば、そこに法は存在しない」
と声を高くした。
97年の公聴会では、こうしたヤリトリを紹介しながら、私はさらに匿名大蔵官僚の暴言を具体的に「公述」した。
「橋龍(橋本龍太郎)は、はっきりいってコンプレックスのかたまりなんです。小沢(一郎)もそうだけどね」
そのころ「国民のバカな人気」があった田中真紀子については「彼女は脱税疑惑女王だから」「永遠に大蔵省の奴隷」と言いたい放題だったが、それをそのまま読み上げたので、委員会室はざわついた。
「中島、田谷(廣明)が女を抱いたといっても、京都に行って抱いてるわけでしょう。いわば遠く離れてやってたわけ」「主計局の人間は、まず僕が知っているかぎりでは、銀座で女を抱いたりはしない。銀座で女を抱くやつって、大体主税局か理財局かそのあたり」の箇所を「公述」した時には、自民党の大蔵族議員が2人ほど「こういう席でそういうことを言っていいのか」
と憤然として私に野次をとばした。
それで私は、「私も、とんでもなく下品だと思ったから、この匿名官僚を訴えているんだ。それに、版元の代理人の弁護士は実在する官僚だと認めている」
と反駁し、公述を続けた。
言うまでもなく、下品なのは私の発言ではない。彼らの放言なのだ。それにしても財務省から1人の前川喜平も出ないのか!
(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、2018年6月1日号)