絶海の孤島、青ヶ島の騒動
平井康嗣|2018年6月22日7:20PM
人口165人(2010年現在)ほどの日本最小の地方自治体、東京都・青ヶ島村がスキャンダルに見舞われている。
二重カルデラというユニークな形が印象的な青ヶ島は強風にさらされるため海も時化やすく、船も1週間寄港できないことはしょっちゅうある。そのため、八丈島から一日一便飛ぶヘリコプターでの上陸が頼みの綱だが、9人しか乗れないため予約も最低2週間待ちと言われる。
このような行きにくさ、アクセスの悪さが、むしろ、日本でもっとも行きにくい絶景スポットだと、ネットでも評判を呼び、日本人や外国人のバックパッカーらを中心に独特の希少価値を持つ島となっている。
さてそんな楽しげな空気をまとう顔とは違う、厳しい話がいま小さな村をかけめぐっているという。
ことの発端は2018年5月30日付『朝日新聞』ウエブ版の記事である。
記事は<事務ずさん、不適正契約約2億円 163人の東京・青ケ島/壊れた島の模型、契約書なし 不正続々、前課長は島外へ>と題して、以下(記事の中心部分)のように報じた。
<全国の自治体で最も人口が少ない東京都青ケ島村(人口163人)でずさんな事務処理による契約が繰り返され、不適正な契約が昨年8月までの3年間で少なくとも44件、総額2億2千万円に上ることが村への取材でわかった。このうち都の交付金は計約1億円含まれており、都は30日から担当者を村に派遣して調査する。>
<村は昨年9月から調査し、青ケ島をかたどった立体模型300個の制作(1個5万円、計1500万円)▽ホームページ制作など特産の焼酎拡販(計約2千万円)▽太陽光パネル設置(約3千万円)など44件の契約について、事務処理が不適正と認定した。このうち村内の電気設備会社との照明設置や塗装工事などの契約22件(計約5100万円)はすべて契約書がなかった。ほかにも、理由なく随意契約にしたり、見積書がなかったりした契約もあった。いずれも前総務課長が契約事務を担当していたという。
村によると、9年前に組織改編し、二つあった課を総務課に統合。副村長はおらず、決裁業務は前総務課長が実質的に一人で担っていた。問題発覚後の昨年9月、前課長は降格。その後辞職して退職金を受けとり、島を出た。>
つまり、前総務課長の独断により、村に損が与えられたという内容だ。記事によると東京都も調査を開始したという。このことがニュースのフックになっている。
『朝日』の記事を受けて、青ヶ島村が前総務課長に損害賠償請求をしているという(上/入手した文書)。
筆者は今年2月、地熱発電の視察で八丈島と青ヶ島村を訪れている。このときに『朝日新聞』記者が前総務課長の問題を取材していることは側聞していた。
訪問した際、村のさまざまな事情を教えてくれた菊池俊幸青ヶ島村議会議長が、この前総務課長は悪さをしていたから、自分が監査に入って追及して、それでも足りないから『朝日新聞』の記者を外部監査に入れてもらって追い出したのだと筆者に語っていたのである。
青ヶ島村役場の職員の多くは村出身者ではなく、前総務課長もその一人だったという。筆者は日本各地の農村取材をしたが、硬直した村を改革するのは「よそ者、若者、ばか者」だと度々言われたものだ。前総務課長がそのタイプだったのかはわからないが、「前総務課長は青ヶ島再生のために地熱発電調査など新しい取り組みを次々に進めていた。それで村議会議長と対立することになった」という趣旨の話は複数の村関係者が口にしていた。
ともかく今回の騒動の成り行きを注視したい。