「戦後最長の景気回復」は
改ざんの恐れ
高橋伸彰|2018年6月22日7:13PM
5月16日に内閣府から発表されたGDP(国内総生産)の第一次速報値によれば、今年1-3月期の成長率は実質で9四半期ぶりのマイナスとなった。
主因は個人消費の不振と輸出の減速だが、いずれも一時的な現象に過ぎず、4-6月期以降は再びプラス成長に転じるとの見方が大勢だ。実際、速報値公表後の記者会見で茂木敏充経済財政・再生担当大臣は「景気について緩やかに回復しているとの認識は変わりありません」と政府の認識を示した。
多くの民間シンクタンクも回復は今後も続き、今年12月には戦後最長の景気拡大期間73カ月を更新すると予想する。日銀が4月の金融政策決定会合で2%物価上昇の達成予想時期を削除し、政府の経済財政諮問会議でも基礎的財政収支の黒字化目標を当初の2020年度から25年度に先送りする動きが顕在化する中で、景気は順調に拡大を続けているように見える。
しかし、景気の山谷を決定する際の基準となるヒストリカルDI(ディフュージョン・インデックス)の推移を見ると、第2次安倍晋三政権が誕生した2012年12月以降、景気は拡大を続けていたのか疑問が湧いてくる。
第一生命経済研究所の首席エコノミスト・永濱利廣氏は『戦後最長の景気回復に疑義』と題する同研究所のレポートで、消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年4月〜2016年2月までの2年近くの間は景気が後退していた可能性があると指摘する。
なぜなら「これまで政府が景気の転換点を決める際には、ヒストリカルDI、が50%を下回る期間が必ず景気後退局面と認定されてきた」のに、上記の期間は「ヒストリカルDIが50%を下回っているにもかかわらず、景気後退と認定されていない」からだ。
これに対し、昨年6月15日に開催された景気の山谷を公式に判定する政府の景気動向指数研究会(座長:吉川洋立正大学教授)では、ヒストリカルDIが50%を下回っていたことを認めながら「経済活動の収縮が大半の部門に持続的に波及したとはいえない」し、またCI(コンポジット・インデックス)一致指数の低下幅も「最も小さかった第10循環の後退局面より大きいものの、過去の後退局面と比べて小さい」ことから、景気後退はなかったと判定された。
今から思えば、この時期は森友学園問題で安倍首相の妻昭恵氏の関与をめぐり国会が混乱、内閣支持率も急落し、翌7月には都議選を控えていた。永濱氏は旧民主党政権時代の2012年4月~11月を景気後退と認定するなら、なぜ2014年4月~2016年2月が「景気後退と認定されないのか腑に落ちない」という。また、人々の実感としても「景気が回復しているとの実感はなかった」と主張する。研究会による判定の背景に、安倍首相への「忖度」は本当に存在しなかったのだろうか。
研究会の構成員にエコノミストとしての矜持があるのなら、戦後最長の景気拡大がアベノミクスの成果として歴史に記録される前に、改めて統計の推移を子細に分析し、判定が正しかったか否かを検討してほしい。そうでなければ、日本経済の記録まで改竄されてしまう恐れがある。
(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。2018年6月8日号)