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明治大、法政大総長メッセージ支持「批判的精神は常に必要」
西川伸一|2018年6月25日4:57PM
たまには私の勤務先もいいことをする(といったら怒られるな)。
明治大学は6月8日付で「自由な学問と知的活力のある大学へ」(学長・学部長声明)を発した。5月16日に田中優子・法政大学総長が公表した「自由で闊達な言論・表現空間を創造します」とのメッセージを支持するものだ。明大の声明は、田中法大総長のメッセージ抜粋を掲げた上で、こう述べている。
「私たちは、田中総長のメッセージを支持いたします。近来、一部国会議員や言論人が、学問の自由と言論表現の自由に対して、公然と介入し否定する発言を行っているのは、憲法を無視しているだけではなく、私たちの日常を支えている、民主主義のモラルを公然と否定するものです。『権利自由』『独立自治』を建学の精神とする本学にとって、この事態は看過できるものではありません。/大学にとって批判的精神は常に必要とされるものであり、この批判的精神によって、権力の暴走を阻み、健全な市民社会を支えていくのです(以下略)」。
昨年12月13日付『産経新聞』に「『徴用工』に注がれる科研費」と題する記事が載った。文部科学省と日本学術振興会が研究者らに交付する研究費である科学研究費助成事業(科研費)が、徴用工問題に取り組む3名の研究者に交付されているというものだ。
自民党の杉田水脈衆院議員が今年2月26日の衆議院予算委員会第四分科会で、これを資料に質疑した。「慰安婦問題の次に徴用工の問題というのは非常に反日のプロパガンダとして世界に情報がばらまかれておりまして」、そうした研究に原資がほぼ血税である科研費がつぎ込まれているのはいかがなものかとの趣旨である。
この杉田議員の質疑は「神質疑」と持ち上げられネット上を駆けめぐった。「【緊急拡散】反日教授たちへの科研費を削減しろ!」とのかけ声の下、「反日教授たち」を名指ししてのキャンペーンへと発展していく。
櫻井よしこ氏も「科研費の闇、税金は誰に流れたか」を書いて「参戦」した(『週刊新潮』4月25日発売号)。最大の標的になったのが山口二郎・法大教授である。山口氏は反論を4月29日付『東京新聞』に寄せている。
さらに「反戦」もキャンペーンに加えられる。『正論』7月号に砂畑涼「あの反戦学者の研究には、いくら公金が? 徹底調査科研費ランキング」が掲載された。その155頁には「『安保関連法に反対する学者の会』呼びかけ人科研費ランキング」として、交付金額順に呼びかけ人の研究者名が所属と交付金額とともに表になっている。砂畑氏は「私は自分自身が苦しい思いをして支払った税金で陳腐な安倍批判のための研究などをしてほしくない」などと結んだ。
科研費は競争的資金であり、応募者が作成した詳細な研究計画調書が、同じ分野の覆面の研究者による2段階の厳正な審査にかけられて採否が決まる。「反日」「反戦」的研究が優先的に採択されるなどありえない。
にもかかわらず「反日」「反戦」というあいまいで感情的なレッテル貼りで研究者を選別し、萎縮させる風潮を強く憂える。明大の声明にある批判的精神に満ちた研究こそ、学問の発展を担保してきたのだ。あろうことか、今や「反日」ヘイトは学問の世界にまで刃を向けている。
(にしかわ しんいち・明治大学教授。2018年6月15日号)