出生数2年連続100万人割れ
2人目の出産が考えられない理由とは?
吉田啓志|2018年6月26日5:52PM
2年連続の100万人割れ――。厚生労働省が公表した人口動態統計によると、2017年に生まれた子どもは過去最少の94万6060人。合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数に相当)も1・43と2年続けて下がった。政府が指標に掲げる1・8への道のりは、遠い。
出生率1・21と全国最低だった東京都。夫と共働きで杉並区に住む4歳男児の母親(32歳)は、2人目の出産は考えられないという。子どもがもっと幼いころ、深夜帰宅が常の夫に世話は頼めなかった。遠くに住む両親はあてにできず、育児休業中は会社の同僚に差をつけられる気がして、深い孤立感と焦りを覚えた。「それで育休が終わったら、今度は保育所探しでへとへと。あんな思いはもうしたくない」とつぶやく。
第1次ベビーブーム、団塊の世代の出生年(1947~49年)のうち、49年には最多の269万人が生まれていた。それが75年に200万人を、16年には100万人を割り、17年は16年より3万人減って49年の3分の1近くまで落ち込んだ。減り方は坂を転げ落ちる勢いだ。
47年に4・54を記録した出生率は、75年に2・0を下回り、人口の維持が難しくなった。低下は続き、05年には過去最低の1・26まで下がった。ただ、その後緩やかに反転し、ここ数年は1・4台前半で推移してきた。
近年、出生率は緩やかな回復か横ばい基調だった。にもかかわらず、出生数が大幅に減っているのは、女性の人口そのものの減少が要因だ。17年の25~39歳の女性人口は1009万人と前年より2・5%減った。産む人がどんどん少なくなっている中、「1人当たり出生数」を示す出生率が少々回復しても、出生数は上向かない。
未婚が増えたこと、結婚する人も婚期が遅く、晩産化が進んでいることも出生数減に直結している。17年に第一子を産んだ女性の平均年齢は、3年連続で30・7歳と過去最高のまま推移。15年の国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の調査によると、夫婦の「理想の子ども数」は2・32人なのに、子どもの予定数は2・01人と差がある。理由の1位は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」(56・3%、複数回答)だ。
安倍政権は、結婚し子どもが欲しいという人たちの希望がすべてかなった場合の出生率を1・8と推計、希望出生率と名付け、この数値を当面の指標としている。
【自民会合でも異論続出】
「高所得者優遇で、所得制限が必要だ」「ばらまき的な政策はすべきでない」
5日の自民党「人生100年時代戦略本部」の会合では、所得を問わず幼児教育・保育利用料を無償とする政府方針に異論が相次いだ。出席者の一人は「支援不要の金持ちも無償なんて。子育て政策としておかしい」と言う。無償化を認可外施設にも広げた政府案には、保護者から「安全性を守れるのか。大切なのは質の高い保育をみな平等に受けられるようにすることだ」との批判も出ている。
相次ぐ雇用政策の規制緩和などで、非正規雇用の労働者は4割に達した。経済的理由で結婚に踏み切れない若者も多い。国会で審議中の「働き方改革関連法案」は、長時間労働の規制と、野党が「過労死法案」とこき下ろす高度プロフェッショナル制度が同居している。「今の政権は成長戦略ありき」と嘆く厚生労働省OBは、安倍晋三首相について「かつて少子化対策で『3年間だっこし放題』と、女性に家で子育てすることを求めた。その本音は変わっていないように見える。男女共同参画に反する路線では、少子化に歯止めがかからない」と懸念している。
急激な少子高齢化は、社会保障制度の維持を困難にする。安倍政権は出生率を40年に2・07程度まで上昇させ、60年にも1億人の人口を維持するとしている。
それでも、社人研は標準ケースの人口推計で、60年の出生率を今と同じ1・4台と予測。人口は9284万人で、1億人を割り込むと見通している。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2018年6月15日号)