大東建託、相次ぐ社員自殺の背景
三宅勝久|2018年6月29日5:49PM
異様な経営手法の裏で
裁判で大東建託側は、会社に責任はないとして全面的に争っていた。だが、提訴から半年後の2010年、遺族の労働災害申請が認められて状況が変わる。亡くなる直前半年間の残業時間は月80時間から120時間に達しており、過労や仕事上の強度のストレスで鬱病を発症したと労働基準監督署は判断した。そして裁判も、11年10月、大東建託が3500万円を支払う遺族側の勝訴的和解で決着した。
まっとうな企業であれば経営者が反省すべき場面だが、大東建託は違う。労災認定当時、筆者の取材に他人事のような口ぶりでこう回答した。
「ご遺族と労働基準監督署の問題である。したがってコメントする立場にない」(同社経営企画室)
直後に発表された多田勝美会長の報酬は株の利益を含めて2億5800万円に達した。
かくして、異常な長時間労働と退職強要、パワーハラスメントが横行する状況はその後も変わらず続く。多田会長は11年に持ち株を売却し、大株主は外資系ファンドになるものの、劣悪な労働環境に大きな改善はなかった。
同社の職場の劣悪さを象徴するのが広告代理店・電通の「鬼十則」を模した「大東十則」だ。「ひとつ、取り組んだら離すな、殺されても離すな、目的完遂までは」などと毎日大声で唱和させる。
契約が取れない社員はしばしば人格を否定される。定規で頭を叩く、長時間罵声を浴びせる、「ブタ」呼ばわりするといった憎悪表現も珍しくないという。業績不良を口実にした退職強要は当たり前。生き残るために社員は殺気立ち、朝礼中に殴り合うこともあったと、ある社員は証言する。
社員をとことん追い詰めて業績向上を図る経営手法が不正の多発を生むのは必然だ。2012年、所沢支店と埼玉中央支店で、経費の不正請求があったとして20人以上が解雇処分された。1人は詐欺などで実刑判決を受けた。
しかし、解雇された社員らによれば、問題にされた不正は氷山の一角だ。融資がつかないのを承知で見せかけの契約をする「テンプラ契約(架空契約)」など、より重大な不正が全国で多数あるはずなのに、見過ごされているという。
架空契約は、親しい地主に頼んで名義を借りる「合意型」と、地主に無断で契約書をでっち上げる「無断型」がある。契約金などの諸経費は社員が立て替える。サラ金に借金がある社員は少なくないという。
社員の自殺も続発している。複数の社員らの証言によれば、2013年から14年ごろにかけて、川口支店、高崎支店、静岡東支店で、計4人の社員(1人は退職直後か)が自殺した可能性がある。確認が取れたものでは、17年に八千代支店と赤羽支店でそれぞれ男性社員が自殺した。業績不良だとして連日、上司に詰問されていたと同僚らは証言する。詳細は不明だが、仕事上のストレスが影響していることは間違いない。