総務省、新たな失業率を発表開始
鷲尾香一|2018年6月30日7:00AM
総務省は5月から新たな失業率の発表を開始しているのをご存知だろうか。この失業率(「未活用労働指標」)は国際労働機関(ILO)の定義に基づいたもので、いくつかの指標で構成されており、失業率の“グローバルスタンダード”となっている。
現在日本で発表されている「完全失業率(季節調整値)」は2.5%(4月)。就業者数は6671万人で前年同月比171万人増加し、64カ月連続で増加。一方、完全失業者数は180万人で同17万人減少し、95カ月連続の減少となっている。
「完全失業率」とは、就業が可能で就業を希望し、かつ仕事を探していた者および仕事があればすぐ就ける状態で、過去に行なった求職活動の結果を待っている者(完全失業者)が、15歳以上の働く意欲のある人(労働力人口)に占める割合を示す。
この(求職活動の結果を待っている)「求職期間」が日本の完全失業者の場合には「1週間以内」となっているのに対して、ILOの失業率(LU1)では「1カ月以内」という違いがある。
このほかにも、ILOは複数の未活用労働指標を発表している。たとえばLU2という指標は、就業者と失業者の合計である労働力人口に占める失業者と現在の仕事を続けながら他の仕事も希望する追加就労希望就業者の合計の割合を示している。これは、失業率が低下していてもLU2が上昇している場合には、労働供給が満たされているわけではなく、潜在的な労働力が残っていることを表している。
LU3は就業者と失業者以外の非労働人口、たとえば、働く意思はあるものの、求職はあきらめている潜在的失業者の比率。LU1が低下していても、LU3が低下しないケースでは、職探しをあきらめた人が多いということで、ここにも潜在労働力があることになる。
LU4は、追加就労希望就業者と潜在労働者を合わせた潜在的な労働力のすべてを示す指標。つまり、現在の労働供給の「伸びしろ」を示すものになる。
実は、米国の金融政策当局のFRB(連邦準備制度理事会)が、金融政策の決定にあたり重視しているのが、LU1とこのLU4の指標だ。日銀の金融政策の目標に雇用は含まれていないが、FRBは金融政策の目標に雇用の安定が含まれているためでもある。
さて、日本の完全失業率は2.5%と非常に低い水準となっている。本来であれば、失業者が少ない=人手不足ということであれば、賃金の上昇が進んでもおかしくない。しかしながら、賃金の上昇は起きていないのが現状だ。つまり、実は失業率の低さほど、賃金が上昇するほど、人手不足は発生していないのかもしれない。
このような状況を分析するには、新たに発表されるようになったLU1~LU4の指標は非常に役立つ可能性がある。
日銀が金融政策の目標とする消費者物価指数の上昇は、個人消費の増加がカギを握る。その個人消費の増加を促すのは、賃金の上昇であり、賃金上昇が起こらない理由を分析する上でも、新たな未活用労働指標は重要な意味を持つ。
日本の労働市場の、失業率の本当の姿をこの新たな未活用労働指標が教えてくれるのかもしれない。
(わしお こういち・経済ジャーナリスト。2018年5月18日号)