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堤防補強よりダム優先で被害拡大か
問われる自公の河川政策
横田一|2018年8月1日1:35PM
立憲民主党や共産党などの野党が「水道事業の運営権を外資に売り渡すものだ」として反対している「水道法改正案」が臨時国会に先送りされることになった。7月5日の衆院本会議で賛成多数で可決、参議院に送られていたが、自民党の関口昌一参院国対委員長は13日、国民民主党の舟山康江参院国対委員長と会談し、見送りの方針を伝えたのだ。
与党側は「市町村などが手掛ける水道事業の広域化などを促し、水道管の老朽化対策を急ぐため」として今国会での成立を目指していたが、野党は水道施設運営権を民間事業者に設定することができる制度を問題視。「民間に運営を委ねると、水道料金が値上がりする」「海外でも失敗事例が多くある」などと強く反対していた。そこで安倍政権は、トランプ米大統領の大口献金者でカジノ王こと「ラスベガスサンズ」アデルソン会長らが儲かる「カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案」(カジノ法案)を最優先、終盤国会での成立を確実にするために水道法改正案を先送りしたと見られる。
だが、「米国益第一・日本国民二の次」のように見える安倍政権に対しては「西日本豪雨災害よりも賭博解禁か」といった疑問の声が噴出。本来なら豪雨災害対応の陣頭指揮を取るべき石井啓一国土交通大臣がカジノ法案の審議に張り付いているためだ。参院に審議入りをした10日は6時間、12日と13日と19日も石井大臣は同じ長時間審議を続けている。
野党はこれを批判。10日の参院内閣委員会では国民民主党の矢田稚子参院議員が「いつの間にか日本人を主な対象とする遊興施設の性格が強まった。海外のカジノ資本が、日本人を対象に儲けたいという思惑が読み取れる」と指摘しながら「カジノ法案の審議をしていていいのか」とも問い質した。すると、立憲民主党の白眞勲参院議員も「豪雨災害は現在進行形の事態だ。人命とギャンブルとどっちが大切なのか」と追及した。
【ダム優先の河川政策】
その豪雨災害だが、石井大臣が視察、歴代自民党政権下で国交省が進めてきた河川政策の誤りを認めるべき現場がある。堤防が決壊、一帯が水没して死者50人を出した岡山県倉敷市真備地区のことだ。
本誌先週号で西日本豪雨災害を「代々の自民党政権の人災」と指摘した河川政策の専門家の嘉田由紀子前滋賀県知事はこう話す。
「水没した真備地区は、ハザードマップ(被害予測地図)で2メートルから5メートルの浸水が予想された危険区域でした。真備地区では高梁川の支流の小田川などで堤防が決壊していますが、この地区の堤防補強が最優先課題だったのです。滋賀県知事になる頃から『鋼鉄製の矢板やコンクリートで周りを囲むアーマーレビー工法で鎧型堤防にして補強すべき』と国に提案してきましたが、代々の自民党政権は『堤防補強よりもダム建設だ』と言ってきた。この河川政策が今回の豪雨災害でも大きな被害をもたらしたのです」
3年前の2015年9月10日の鬼怒川水害でも、堤防が決壊して2人が死亡、30人が重軽傷を負う事態を招いていた。
『ダムが国を滅ぼす』の著者の今本博健京都大学名誉教授は「ダム建設よりも堤防強化の方が重要であることを実証したのが鬼怒川の水害」と指摘。「国交省は早急にやるべき堤防強化の優先順位を低くして、ダムやスーパー堤防を優先したということ。予算獲得できる巨大事業にこだわったためと言えます」と批判。今本氏は京大の後輩である太田昭宏国交大臣(当時)に「ダム最優先の河川行政を改めてほしい」と助言しようとしたが、「面談を拒否された」という。
第2次安倍政権以降、国交大臣ポストは公明党の“指定席”。しかし初代の太田大臣も2代目の石井大臣もいまだに人命軽視の河川政策を改めようとしない。米国益実現の「売国的」カジノ法案成立を、日本国民の生命財産よりも優先しているとしか見えないのだ。
(横田一・ジャーナリスト、2018年7月20日号)