参院定数増、民主主義の基盤をも破壊する安倍政権
西谷玲|2018年8月11日5:27PM
言語道断、破廉恥、開いた口がふさがらない。与党が国会を延長し、成立させようとしている公職選挙法改正案のことである。参議院の定数を6増やそうというのだ。1票の格差是正のために、埼玉選挙区の定数を2増やすという。1票の格差を正すのは必要なことだが、何も全体の定数を増やす必要はまったくなく、どこかを増やしたらどこかを減らすという方針で臨むべきだろう。
解せないのは、残りの四つの定数増のやり方である。比例代表の枠を4増やして、「特定枠」を設けるのだという。現在、比例代表は得票数の多い人から順に当選していく「非拘束名簿式」を取っているのだが、「特定枠」として名簿に登載された人は優先的に当選させるらしい。つまり、一部に拘束名簿式を導入する、と考えてよいだろう。
非常にわかりにくい、手の込んだ方式をやろうとしているわけだが、なぜこんなことをするかと言えば、前回の参院選で導入された合区の対象者を救済するためだという。すなわち、「島根・鳥取」「徳島・高知」でそれぞれ選挙区を合わせた結果、それまで当選していた人がはじき出されるから(どちらも自民党が議席を確保していた)、その人を当選させてあげようというのだ。
自民党はもともと、憲法改正で合区の解消を狙っていた。しかし、それが難しいとなって、定数増へと狙いを変えたのである。
安倍晋三首相は6月27日の党首討論で「『1票の格差』の問題を解決しなければならず、1県に1人の代表が必要という声も強い。答えを出さなければとの責任感で出された法案だ」と述べた。
確かに、合区となった地域は隣接しているといえども人々の気質や事情はまったく違う。しかし、1県に1人の代表が必要かどうかという議論はそうなされておらず、それもしないうちに弥縫策として定数を増やすというのは解決のベクトルが違っているだろう。ご都合主義で制度をゆがめるとしか思えない。参院を表現する言葉である「良識の府」が聞いてあきれる。
参院の選挙制度は政治の波に翻弄されてきた。現行の比例代表の制度、2001年から始まった「非拘束名簿式」を導入するときもそうだった。
自民党にとって参院というのは鬼門であって、参院選で負けて野党と連携したり、自由党や公明党と連立したり、ということを迫られた。比例代表の各候補の集票をフル回転させるため、最初から名簿の順位が決まっている「拘束名簿式」をやめて「非拘束名簿式」にしたのである。
そして今回の「特定枠」である。選挙のような民主主義の根幹にかかわる事柄は、与野党で議論を尽くして合意を見いだしていくべきである。それが突然出てきたアイデアで、野党は当然反対した。与野党協議は紛糾し、与党は一方的に議論を打ち切って国会も延長させて成立をさせようとしている。来年の参院選に間に合わせたいからだ。世論調査でも反対の声が強い。国民をバカにするにもほどがある。
もし今回、「特定枠」の定数増を強行するなら、これから参院選があるたびに与党は批判にさらされるだろう。安倍政権は民主主義の基盤をも破壊するのだろうか。
(にしたに れい・ジャーナリスト、2018年7月6日号)
【編注】参議院の定数を6増やす法案は、7月18日の衆議院本会議で可決・成立した。