3選しても安倍政権が
はかない理由
佐藤甲一|2018年8月23日7:52PM
曖昧な「支持」理由
まず「選挙に強い」ははたして本当か。直近の国政並み選挙は新潟県知事選挙だった。与党は元新潟県副知事だった花角英世氏を推して、当選した。この選挙に負けると安倍政権はレイムダック化した可能性があっただけに、安倍首相はこの選挙の後、見るからに自信回復した。
しかし情報系労働組合の幹部によると、むしろ統一候補を立てて勝てる体制を作ったかに見えた野党は内実、がたがただったという。その原因は結局、国民民主党が共産党との連携を嫌い、最後まで一枚岩になれなかったからだ、という。つまりは昨年10月の衆議院選挙を前に旧民進党が自壊していった構図は今も何ら変わっていない、ということだ。
昨年の衆議院選挙の結果を改めて振り返れば、与党と野党の得票率は選挙区で5分5分、比例区では46対54で、野党のほうが勝っている。野党の結集さえできれば安倍政権はとっくに終焉を迎えているわけで、安倍首相が「選挙に強い」のではなく「野党が弱い」にすぎない。つまりは、一度躓けば、神話は崩壊する。安倍首相が新潟県知事選挙の後「勝つと負けるのでは大違い」と述べたのはまさにその核心を自覚してのことにほかならない。
かりに安倍首相が総裁選3選を果たしたとしても、来年夏の参議院選挙は再び大きな関門になるだろう。代わるべき政党がない中で安倍政権の「横暴」を食い止めるのは、参議院選挙の敗北による引責、そして再び「衆参ねじれ現象」を導き、政治に緊張を与えるしかないからだ。野党政権に懲りた国民の選ぶ道は参議院選挙での与党敗北に行き着くかもしれない。
さて外交のほうも、実態は乏しい。昨年1月、就任直後のトランプ米大統領と会談して帰国した安倍首相は親しい記者と首相公邸で歓談した。取り巻き記者たちは「トランプとプーチンロシア大統領と渡り合う安倍首相は『世界の安倍』だ」と持ち上げた。個人的な関係を梃子に日米関係を深化させ、一方で北方領土の返還を目指した安倍首相だが、それから1年半、日米、日ロ関係はどんな変化があったろうか。
まず、プーチン大統領と会談を重ねる安倍首相だが、北方領土は1ミリも日本に近づいてはいない。ロシアはことのほか軍人OB(彼らはベテラン、と呼ばれ尊敬の対象である)を優遇する。家族・親戚のうち誰かは第2次世界大戦で命を落としている(2000万人が犠牲になったとされる)。国民にとり、血で贖った領土を返すことなど露ほども考えていない。
はたして安倍首相にこうしたロシア人の「思考回路」を説明した官邸官僚はいるのだろうか。まして北方領土には戦後いくつものロシア正教の教会が建立されている。ロシア人にとり教会=「聖地」を返さないことはウスリー川をめぐる中国との帰属問題の解決策において自明のはずだ。
トランプ大統領においては、安倍首相がいかに良好な関係を誇示しようと、トランプ側からの対日要求を見れば「ひとりよがり」であることはもはや隠しようがない。アルミニウム・鉄鋼の関税は引き上げられ、F35や「イージスアショア」などの防衛装備はアメリカの言い値で買わされることになった。
さらに「安倍首相だから」と期待され続けてきた北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による拉致被害者の救出、解決はその道筋すら見えていない。自ら主体的に日朝首脳会談を行なう術すらなく、9月にウラジオストックで開かれるロシア政府主催の「東方経済フォーラム」の場を借りるしか、今のところ望みはない。これではプーチン大統領に見くびられても仕方あるまい。