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西日本豪雨、水没原因にダム異常放水説浮上 
官邸指示遅れで被害拡大か

横田一|2018年8月28日10:26AM

高梁川支流の成羽川上流に位置する新成羽川ダム。中国電力管理の発電用ダム。(撮影/横田一)

中国山地が源流の「高梁川」下流域(浸水被害の高梁市や堤防決壊で死者50名を出した岡山県倉敷市真備町地区など)で、“ダム異常放水起因説”が浮上している。

上流のダムが満杯となって大量放水をした時に真備町地区の堤防が決壊するなど、下流の洪水被害と異常放水のタイミングが一致するためだ。こんな疑問の声が被災者から出るのはこのためだ。

「安倍首相が5日夜の赤坂自民亭への出席をキャンセル、すぐに非常災害本部を設置して『ダム事前放水(貯水率低減)』を指示していれば、被害を避けられたのではないか!?」

メディアがまず注目したのが、倉敷市から約40キロ北にある「河本ダム」(新見市)。7月15日付『東京新聞』(「西日本豪雨に見るダムの限界 放水急増平時の75倍 倉敷・真備『バックウォーター』に影響か」)と、7月16日放送のFNN「報道プライムサンデー」(「もう放流はしないでくれ 水没の街にみたダム行政の“限界”」)は、6日17時からダム放水量が急増して垂れ流し状態(ダム満杯で流出量が流入量と同じ)に至った推移をグラフで紹介。安倍首相の「初動の遅れ」(職務怠慢)を実感できるのだ。

5日14時に気象庁が「記録的豪雨の恐れ」の警報を発したのに、同日の夜に安倍首相は総裁選対策で「赤坂自民亭」の飲み会に参加。翌6日はダム管理の最高責任者の石井啓一国交大臣が海外カジノ業者の儲かる賭博解禁を可能とする「カジノ実施法案」審議に張り付いた。この日の夕方からダム異常放流が始まって高梁市では浸水被害が出て、翌7日1時半には真備町地区で堤防が決壊したが、非常災害本部が設置されたのは被害が出た後の翌8日8時。気象庁の警報から66時間後のことだった。

「いまはリアルタイムでの情報共有が可能なのに、なぜ気象庁の警報がダム管理者に伝わって『事前放流』をすぐにしなかったのか。記録的豪雨に備えて出来るだけダムを空っぽにしておけば、貯水量に余裕が出来て治水機能を発揮、異常放水による水害は防ぐことができたのではないか」(被災者)。

【46年前と同じ失敗の繰り返しか】

高梁川沿いでホテルが浸水被害を受けた金海偵子さん(高梁市)は「1972年の大水害でも今回と同じように高梁川沿いの一帯が水没、『ダムが原因ではないか』という話が出て被災者が訴訟を起こしたと聞いています」と話す。

同じ高梁市で今回も46年前も浸水被害を受けたAさん(80歳)は、この「新成羽川ダム水害訴訟」の原告に加わり、傍聴もしたと振返る。「今回の水害でも、すぐにダムのことが脳裏をよぎりました。『上流からの異常放水であっと言う間に浸水したのだろう』と。河本ダムと新成羽川ダムからの放水が重なった時に浸水したのです」。

実は、県管理の「河本ダム」以外に“ダム異常放水起因説”の対象となる巨大ダムがあった。高梁川支流の成羽川に位置する「新成羽川ダム」(高梁市)のことだ。中国電力が管理する発電用ダムで、有効貯水量は「8050万」で河本ダムの「1110万」の7倍以上。高梁川と成羽川の合流地点の高梁市落合で浸水被害が出ているため、河本ダム以上の影響を与えた可能性が高い。

「新成羽川ダム水害訴訟」に取り組んだ平井昭夫弁護士(岡山市)は、こう話す。

「水を有効利用したい中国電力はダムをなるべく満杯にしておきたい。裁判では『事前放流でダムの貯水量を下げて空に近づけ、治水機能を発揮させるべきだった』と主張。利水と治水のバランスが論点となりました」。

安倍首相は46年前と同じ失敗を繰り返した可能性が強まる。記録的豪雨の警報を受けて即座に、新成羽川ダムや河本ダムなどに「ダム事前放流(貯水率低減)」を指示すれば、水害被害は回避されたのではないか。初動の遅れが水害拡大を招いたのかについて徹底検証が必要だ。

(横田一・ジャーナリスト、2018年8月10日号)

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