闘い続ける辛淑玉と共にいる
佐高信|2018年8月29日6:01PM
7月20日午前11時から、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)社長の伊達寛が辛淑玉に「お詫び文」を手渡す席に私は宇都宮健児と共にいた。弁護士の金竜介(何とマルセ太郎の息子とか)を辛の用心棒とすれば、宇都宮と私は保護者もしくは身元引受人である。
昨年の1月2日と9日にMXは「ニュース女子」という番組で、辛は沖縄の基地反対運動を過激に行ない、参加者に5万円の日当を出す黒幕だと一方的に難じられた。そして、在日コリアンだということもあげつらわれたのである。
これを不当だとして、放送倫理・番組向上機構、いわゆるBPOの「放送と人権等権利に関する委員会」に訴えた辛に対して、MXの代理人である弁護士は「問題はない」と開き直った。
しかし、今年の3月8日に同委員会の勧告が出て、MXはようやく方向転換する気になり、謝罪を申し入れてきたのである。
「お詫び文」は辛宛てで、沖縄で基地反対運動をしている人への謝罪はない。
「配慮を欠いた表現」という言い方も薄っぺらだろう。
しかし、「ニュース女子」を制作したDHCと番組司会者の長谷川幸洋(前『東京新聞』論説副主幹)を主敵として、これから闘うために辛は一応、お詫び文を受け取ることにした。
このデタラメな番組によって日本にいられなくなった辛は、ぶつけたい怒りは山ほどあったろうが、それを抑えて静かに、しかし、強くMXの社長に訴えていた。
私も発言を促されたので、まず、出自を問題にするなら、天皇が自ら朝鮮から渡って来たと話していることについてはどう思うのか。それに深く触れる必要があったのではないか。
また、市民運動の実態を知っていれば、5万円の日当など思いもよらない話であり、長谷川などが逆に日当をもらって動いているのでなければ、出てこない話である。私なども持ち出しにこそなれ、日当を受け取ることはない。
最後に、こうした話は自分の身に振りかからなければ、その不当さはわからない。
たとえば、他の放送局が、
「MXは今日つぶれました」
と流したら、どう思うのか。そこから考えなければ身にしみないだろう。
保護者ではなく共闘者になるべき
午後4時からは、上野千鶴子らを加えて記者会見が行なわれた。
始まる前、辛と会うや、上野は「ありがとう」と言って辛とハグした。
弁護士の金竜介は、面倒なことを頼んでしまって、と恐縮する辛に「巻き込んでくれてありがとう」と言っていた。
私もまったく同じ気持ちである。これは辛一人の闘いではなく、また、辛一人の闘いにしてはならない。ヘイトスピーチをはびこらせてしまっている私たちの問題であり、私も保護者や身元引受人ではなく、共闘者にならなければならないのである。
2006年春に出した辛と私の共著『ケンカの作法』(角川oneテーマ21)の「あとがき」に、辛はこんなことを書いている。
「人生をもう一度やり直せるとしたら誰と一緒に過ごしたいかと問われたら、私の憧れの人である作家の目取真俊さんと即答するが、残りの人生を誰と遊びたいかと問われたら佐高さんと答えたい」
ウーンだが、「それほど、佐高さんは居心地がいい人だ」とか。
記者会見を終えて、あれはいまも同じかと尋ねたら、辛は「そう」と即答した。
「遊び相手」から私は永遠に昇格しないらしい。まあ、それもいい。辛よ、遊びながら闘い続けよう。
(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、2018年7月27日号)