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安倍政権、業界圧力で外国人労働者の在留資格を緩和か
吉田啓志|2018年8月31日4:53PM
介護や建設業界が人手不足にあえいでいるのを受け、政府は外国人労働者の受け入れ拡大に踏み切る。秋の臨時国会に新たな在留資格の創設を盛り込んだ入国管理法改正案を提出し、来春にスタートさせることを描いている。「一定の技能を持つ人が対象」。これが国の言い分だ。それでも実質は単純労働者の受け入れに舵を切るもので、入管政策の転換点となる。
7月24日にあった「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」の初会合。安倍晋三首相は「現場での人手不足は深刻だ」と訴え、「即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築することが急務」とハッパをかけた。上川陽子法相はこの日の記者会見で、いまの入管局の「入国管理庁」への格上げを検討する考えを示した。
農業、介護、建設、宿泊、造船。少子高齢化のあおりで、この5業種はとりわけ人手不足が目立つ。1人にいくつの働き口があるかを示す2017年の有効求人倍率は1・50と44年ぶりの高水準だったが、中でも建設(4・01)や介護(3・57)は際だっている。職員を雇えずに稼働できない介護施設などの話を伝え聞いた安倍首相は、周囲に「外国人の受け入れもやむを得ないよね」と漏らしていたという。
現行制度では、就労目的で日本に滞在できるのは医師など高度専門職の人に限られている。この規制を緩和し、新制度では一定の技能や日本語能力を条件に最長5年の在留を認める。介護などの5業種に加えて外食産業なども対象となる見通しだ。既存の技能実習制度で来日した人なら、同制度の5年分の枠と合わせて計10年間とどまれる。政府は25年までに50万人超の労働者を確保できるとみており、東京五輪・パラリンピックを控えて特需に沸く建設業界は歓迎ムードだ。
【来年の選挙対策の一面も】
新制度も「単純労働は認めない」のが建前。だが、今ですら127万人の外国人労働者のうち、アルバイトが23%、技能実習生が20%を占め、多くは単純労働に駆り出されている。16年の厚労省の立入調査では、実習生が働く事業所の7割で賃金不払いなどの違反が発覚した。年間に失踪する実習生は7000人を超えている。
家族の帯同も新制度では原則認めない。「人」ではなく、あくまでも「労働者」としての受け入れだ。「移民ではない」ためだが、外国人受け入れに批判的な厚生労働省幹部は「便法だ。外国人を安価な労働力とみなしているとみられても仕方ない」と漏らす。
安倍首相は元々、外国人労働者受け入れには慎重だった。それが自民党支持団体の建設業界などから上がる、未曽有の人手不足に対する悲鳴に揺れ始めた。放置すれば成長戦略重視のアベノミクスへの影響は避けられない。来年の統一地方選や参院選もにらみ、6月に閣議決定した「骨太の方針2018」に受け入れ拡大をねじ込んだ。
ただ、人手不足対策としては、新制度は中途半端、との見方もある。東京都内の介護事業者は「50万人増えても他業種との争奪戦になり、介護業界には数万人来るくらいだろう。人手不足が解消するとは思えない」と話す。
外国人の受け入れを拡大する以上、いかに共生していくかを模索し、日本の文化への理解を求めていく必要が生じる。にもかかわらずこうした議論は低調だ。
93年に始まった技能実習制度の本来の目的は、外国人に日本で5年間のうちに技術を身につけてもらい、自国で生かしてもらうことだった。それなのに新たな在留資格と通算して10年日本に滞在できるようになれば、技能実習制度はますます形骸化が進む。
「いわゆる移民政策はとらない」。安倍首相はそう繰り返してきた。しかし、骨太の方針では新資格を得た人が専門分野の試験に合格するなどした場合、在留期限を撤廃し、家族を呼び寄せることを認めている。便法を積み重ねることによって、「移民」の定義をじわじわ狭めているようにも見える。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2018年8月10日号)