【タグ】エルトン・ジョン|セックスワーカー|国連エイズ計画|国際エイズ会議|HIV|UNAIDS
国際エイズ会議を取材して実感
感染拡大止まらぬ日本の後進国ぶり
杉山正隆、久田ゆかり|2018年9月4日12:00PM
第22回国際エイズ会議(AIDS2018)が7月23日から27日までオランダ・アムステルダムで開かれ、患者・感染者をはじめ、医師・歯科医師や看護師、研究者、セックスワーカーら世界160カ国から約2万人が参加。クリントン元米大統領や、ヘンリー英王子、歌手のエルトン・ジョンさんらもエイズをめぐる諸問題の解決に向けて努力を続けるよう強く訴えた。
UNAIDS(国連エイズ計画)によると、世界のHIV感染者は3690万人。2017年のエイズ死者数は94万人でピーク時から半減しているが、生命維持のための治療を受けている患者数が急増している。また、弱い立場にある「鍵となる人たち」(セックスワーカー、注射薬物使用者、トランスジェンダーの人々、受刑者、ゲイなど男性と性交渉をする人と、その性パートナー)が世界のHIV新規感染の47%を占め、3分の1が注射薬物使用者の感染。東欧・中央アジアでは新規感染の実に97%を占める。
UNAIDSは2020年までに「90―90―90」の達成目標を掲げる。「世界中のHIV陽性者の90%が検査を受けてHIVに感染していることを知る。そのうちの90%が抗HIV治療を受ける。さらにそのうちの90%が治療の効果で体内のウイルスを検出限界以下にする」というものだ。2030年に目標をさらに5ポイント上げ「95―95―95」を成し遂げることでHIVの流行を事実上、終了させようとする。
現実には世界は「75―79―81」の水準にあり「90―90―90」の20年までの達成に向けて「黄信号が灯っている」一方、成果が上がっているとの報告もなされた。ボツワナ、カンボジア、デンマーク、エスワティニ(旧スワジランド)、ナミビア、オランダの6カ国はすでに「90―90―90」目標を達成、さらに7カ国が達成見込みだ。最もハードルが高いのが最初の90で、たとえば西部や中部のアフリカではHIV陽性者の48%しか自らの感染を知っていない。
【先進国と思えない日本】
日本は「86―83―99」(2015年)とされているが、検査・診断を受けていない感染者が少なくないうえ、診断されても治療が始まっていない人が多く、「とても先進国とは思えない。衝撃的だ」(医療関係者)との声が上がる。
厚生労働省のエイズ動向委員会によると、わが国の17年の新規HIV感染者報告数は992件、新規エイズ患者報告数(「いきなりエイズ」と称される)は415件で、新規報告数は計1407件。前年度より減少したものの、「高止まり」の状態。性的接触によるものが8割以上で男性同性間が多い。3年ぶりに複数の母子感染の報告があった。「いきなりエイズ」の比率は約3割にもなる。
累計の患者・感染者は2万8750人で、凝固因子製剤による1439人と合わせると3万189人と初めて3万人を超した。昨1年間の献血で判明したHIV陽性件数は43件。10万件当たりの陽性件数は0・900と高い傾向が続く。同委員会は「20~40歳代で報告が多かったが、70歳代など幅広い年齢層の報告がある。HIV感染症は予防可能だ」とし、保健所などでの相談や検査、妊婦健診の受診など適切な予防行動を取るよう呼びかける。
日本でも2020年以降は「95―95―95」を目指し、特に新規感染者を減らすべく本腰を入れるべきだ。そのためには一時の半分以下としている関連予算を増額させ、再び取り組みを強める必要がある。
同会議での日本人ジャーナリストはJCJ(日本ジャーナリスト会議)から正式に取材登録した私たちだけ。『朝日新聞』と時事通信が外電を引用して短く報じたぐらいだった。「日本では先進国で唯一、HIVの感染拡大に歯止めがかかってないのになぜ?」と地元記者は首をひねった。
(杉山正隆、久田ゆかり・ジャーナリスト、2018年8月24日号)