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外国人労働者の受け入れ拡大は“ご都合主義”

鷲尾香一|2018年9月10日6:01PM

政府は6月15日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太の方針)で、労働力不足を補うため外国人労働者の受け入れ拡大を打ち出した。

骨太の方針では、「新たな外国人材の受け入れ」については、「移民政策とは異なる」としながらも、「中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、わが国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている」として、「従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある」としている。

政府は秋の臨時国会に入国管理法改正案を提出する方針。「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策(仮称)」の策定を指示した。

外国人労働者の新たな就労資格は人手不足が深刻な分野に限り、最長5年の単純労働を含む職場での就労を認める内容だ。受け入れ業界は建設、農業、介護、造船、宿泊の5分野を想定している。

政府は新たな在留資格を19年4月からスタートさせたい意向で、技能実習で日本にやって来た外国人の場合、新たな資格を得れば最長で10年間、日本で働くことができるようになる。

外国人労働者は、17年10月末時点ですでに127万人いる。労働者の約50人に1人が外国人という計算になる。政府は2025年までに50万人の外国人労働者を受け入れる方針だ。

しかし話はそんなに単純ではあるまい。言語や文化、習慣の違いなどで日本社会に馴染めずに失業する場合もあるだろう。外国人労働者が増加すればこうした事例も比例的に増加すると考えられるが、十分な対応はできるのか。

政府は外国人労働者への支援策を策定し、日本語教育の充実など行なう方針で、安倍首相は、「外国人を社会の一員として受け入れ、円滑に生活できる環境を整備することが重要だ」と意気込む。

それでも、外国人労働者が上手く機能するかは不透明だ。事実、政府の調べでは、生活保護を受けている外国人が2016年度に月平均で4万7058世帯に上り、過去最多に達した。2006年度には3万174世帯だったので、10年間で56.0%も増加したことになる。

人数ベースでも外国人が世帯主の生活保護の受給は、2006年度の月平均4万8418人から2016年度には7万2014人と48.7%も増加した。これらの外国人は、生活保護の手続きをして受給できるほど、日本での居住年数も長く社会に溶け込んでいると言えよう。かつての移民ではないにせよ、日本で働き、日本に税金を納める外国人労働者に対する社会保障やその財源を政府はどう考えているのか。

さらに、たとえば、「朝鮮籍」、韓国籍、中国籍を持つ在留外国人ですら日本社会の中でいまだに差別的な扱いを受けている例が多々ある。こうした何世代にも及んで日本で暮らしている人たちですら、満足に受け入れられていないというのに、自国の労働力不足を補うために外国人労働者を受け入れるという政策は、あまりにも“ご都合主義的な政策”ではないだろうか。

(わしお こういち・経済ジャーナリスト。2018年8月10日号)

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