杉田水脈衆議院議員にみる「ムダの制度化」
西川伸一|2018年9月10日5:32PM
妻が市民農園の抽選に当たって、この春から農作業に励んでいる。きゅうりの大豊作で、近頃ではきゅうりが食卓に上らない日はない。曲がってしまったきゅうりもよく穫れる。とはいえ、味に問題はないし、切ってしまえば曲がっていようが関係ない。
しかし、スーパーでは曲がったきゅうりは決してみかけない。農産物に過剰品質が求められている一例である。曲がったきゅうりはムダとなる。過剰な浪費が制度的に行なわれている。これを「ムダの制度化」という。
経済学者の都留重人氏は1963年に発表した論文でこう書いている。
「現在のアメリカでは、日本の国民総生産全額を上まわる金額のものを国防費として支出している。必要だと思うからこそ支出しているのであろうが、経済の立場からすれば、なくもがなの支出、再生産過程からは脱落するところのムダな支出である」
「アメリカの場合、『ムダの制度化』の大宗をなす国防支出がおそろしく巨額にのぼるということは、アメリカの経済、ひいてはその社会全体のなかに、『産軍相互依存体制』と呼ばれる体質的な特徴を生んでおり(以下略)」(『都留重人著作集』第3巻、講談社、60―62頁)。
7月31日に15年ぶりに火星が地球に最接近するとあって、各地で観察会が開かれた。アメリカ航空宇宙局(NASA)には、2030年代に人類の火星到達を目指す計画があるという。1969年にアポロ11号が人類史上初の月面着陸を成し遂げた。ただ、巨費が投じられたこの「偉業」によって、人類の福祉はそれに見合うほどに向上したのだろうか。宇宙開発は軍事支出と同質の「ムダの制度化」と思えて仕方がない。
軍事支出といえば、防衛省は火星最接近の前日に、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」2基の配備費用が、当初の想定から1基あたり約1・7倍の総額4664億円に膨らむとの試算を明らかにした。しかも「金額は売り主の米側の『言い値』になりやすく、さらに増える可能性がある」という(7月31日付『朝日新聞』)。アメリカの「産軍相互依存体制」と不可分の「ムダの制度化」に、日本の国富が青天井にむしり取られるのか。
さて、記録ずくめの猛暑の毎日である。冷房需要の急増で電気が足りなくなるのではと心配してしまう。だが、そうはならないらしい。「3・11」以降節電が定着し、再生可能エネルギーの普及も進んだためだ(8月2日付『朝日新聞』)。原発は「原子力ムラ」を守るための「ムダの制度化」であることが、ますますはっきりした。
そして、「ムダの制度化」の番外編としてぜひ指摘しておきたいのが、自民党の杉田水脈衆院議員の存在である。かかる人権意識を欠落させた人物でもバッジを付けられるのは、現行の選挙制度に起因する。杉田氏は昨年の総選挙で比例中国ブロックの単独17位で立候補した。このとき自民党は、中国ブロックで小選挙区との重複立候補者16人を1位で並べた。彼らのうち15人が小選挙区で当選した。従って、杉田氏は実質的に名簿順位2位となって当選できた。名簿順位下位での単独立候補の場合、有権者に吟味されずに当選してしまう事態が生じる。こうした「ムダ」が「制度化」された選挙制度なのである。
(にしかわ しんいち・明治大学教授。2018年8月10日号)