総裁選と沖縄知事選、逆転呼ぶ「言葉」
佐藤甲一|2018年9月11日5:39PM
酷暑の夏が終わりを告げる9月に、この国の近未来を展望させる二つの選挙が本番を迎える。20日に投開票が行なわれる自民党総裁選挙、そして10日後の30日に投開票が行なわれる沖縄県知事選である。
自民党総裁選挙はすでに国会議員票の7割を固めた安倍晋三首相の優位が伝えられ、さらに党員票(地方票)においても地方議員の支持拡大を目指し、圧勝をもくろんでいる。沖縄県知事選挙でも、早々と宜野湾市の佐喜眞淳前市長の擁立を決めた自民党に対し、翁長雄志知事の急死によって非自民系の「オール沖縄」サイドは候補者擁立作業の出遅れが否めない。公明党が佐喜眞氏へ厚い支援体制を敷くのは確実、との観測もあって「300%勝てる候補」(政府関係者)と、必勝ムードが漂う。
だが選挙は、政治のプロが読む見通しと異なる結果を生むことがしばしばある。その引き金となるのは、有権者に向けた「言葉」であり、選挙の本質を摘出した「キャッチフレーズ」である。
筆者の記憶する「逆転劇」は二つある。一つは自民党竹下派が分裂し、派閥の主導権争いに敗れた小沢一郎氏が新生党を結成し、1993年7月の衆院選挙で55議席を得て第三党に躍進した局面だ。小沢氏らの勝利のキーポイントは、その政治主張が受け入れられたからだけではない。本質的には派閥抗争であったものを「政治改革」を巡る戦いにすり替え、「改革派対守旧派」という二項対立のワードを設定したことにある。
「革新と保守」ならば、当時はまだ「55年体制」下の政治状況にあった有権者にとっても聞き慣れた言葉であり、新鮮味はない。だが、革新には至らない「改革」、これまでの権益に固執し、保守以上に頑迷固陋の印象がわき出る「守旧」、この二つを並べたときに、いわゆる保守支持層はどちらを新しい政治と受け取るか、小沢サイドにはこうした思惑があった。
今ひとつは、2001年4月、三度目の挑戦で総裁選に勝利した小泉純一郎氏のケース。国会議員票で有利とみられた橋本龍太郎元首相は、予備選挙で党員の圧倒的支持を集めた小泉氏の前に予想外の敗北を喫した。その小泉氏が用いたのが「自民党をぶっ壊す」「抵抗勢力」という二つのフレーズだった。小泉氏に進言したという評論家の田原総一朗氏によれば、総裁選挙の前に田原氏が提案したのは「派閥政治を壊す」だった。だが、総裁選挙になるといつの間にか小泉氏自身によって「自民党」にすげ替えられていた、という。
自民党総裁選の挑戦者たる石破茂元幹事長に、地方党員を震撼させる「言葉」を打ち込むことができるのか。石破氏は立候補表明に際し「正直、公正」な政治、を訴えた。「モリカケ問題」を意識した上での発言だが、「非安倍」を貫くなら、安倍政治を断じなければ国民の共感は十分得られまい。
一方の沖縄県知事選。故翁長知事は15年8月、菅義偉官房長官と会談した際に基地問題と向き合う県民の気持ちを「魂の飢餓感」と表現した。この「言葉の魔術師」とも言える的確なワードは、保守系議員も含めた県民の思いを広く、強くまとめる源だったと思う。野党系候補と目される自由党の玉城デニー衆院議員(沖縄3区選出)は、広く県民の意を汲む言葉を発することができるだろうか。
(さとう こういち・ジャーナリスト。2018年8月24日号)