豊洲市場開場に待った!
築地「女将さん会」らが移転差し止め訴訟
永尾俊彦|2018年10月9日1:03PM
「『盛り土』もウソでした。『汚染物質はすべて除去』もウソでした。すべてがウソなのです。これで移転計画が中止にならなければおかしいと思います」
9月19日、東京都(小池百合子知事)が進める築地市場(中央区)の豊洲市場(江東区)への移転に反対する水産仲卸業者の山口タイさん(75歳)はこう話した。
この日、山口さんほか仲卸業者ら56人は、東京地裁に移転差し止めを求めて提訴、同じく仮処分も申し立てた(注)。都は10月6日で築地市場の営業を終了、同11日に豊洲市場を開場させる予定だ。
だが、今年6月の地下水調査でも環境基準の170倍のベンゼンが検出されるなど豊洲市場には深刻な汚染が残されている。都は有害物質に汚染された土壌や地下水を「無害化」すると約束した(2010年)が、追加工事を含めて897億円もかけた土壌汚染対策は大失敗に終わったのだ。
だが、7月30日、都の専門家会議(座長=平田健正・放送大学和歌山学習センター所長)は、豊洲市場で行なわれた追加工事について「将来のリスクを踏まえた安全性が確保された」と評価。地下に汚染があっても遮断されているので地上の市場建物内は安全との理屈だ。小池知事は翌31日に「安全宣言」をした。原告の新井眞砂子さん(76歳)は、「安全宣言をしなければならない市場なんてほかにどこにありますか」と批判した。
原告によれば、土壌汚染対策が不十分な豊洲市場に移転すれば消費者の不安は大きくなり、営業上大打撃を受けるのは必至だ。また、最近豊洲市場で地盤沈下によるコンクリートのひび割れが発覚したが、すき間から地下の揮発したベンゼンなどが市場建物内に入り食の安全が脅かされ、仲卸業者らの健康も害される危険性がある。さらに豊洲市場ではカビが発生したり、駐車場不足のほか、開場すれば都の市場問題プロジェクトチームの試算で年間約100億円の赤字が見込まれるなど問題山積という。
弁護団長の宇都宮健児弁護士(元日弁連会長)によれば、裁判では人格権に基づき移転の差し止めを求める。
「人格権とは、個人の生命、身体、生活に関する利益の総体であり、憲法13条(幸福追求権)、25条(生存権)から導かれる権利で、判例もあります」と同弁護士は説明した。大飯原発(福井県)の運転差し止めを住民が求めた訴訟では、結局は今年7月、名古屋高裁金沢支部で住民側の逆転敗訴が確定したが、一審福井地裁(樋口英明裁判長)は2014年に人格権に基づいて差し止めを認めている。
【「旗を立てよう!」】
仲卸業者の女性らでつくる「築地女将さん会」が、移転期日半年前の今年3月に水産仲卸業者に実施したアンケート調査では、535業者中261業者(48・6%)から回答を得たが、「今からでも中止するべき」82業者(31・4%)、「凍結して話し合うべき」101業者(38・7%)で豊洲市場への移転の「中止」「凍結」の合計が183業者で、約7割を占めた。
前出の山口さんは「築地市場の多くの関係者が移転には全く納得していません。それが皆さんの目に触れるよう『旗を立てよう!』と提訴しました」と話した。
「女将さん会」は、これまで小池知事に公開質問状などを5回以上出したが、ことごとく無視。他方で知事は「女将さん会のご主人方も、一方で準備もされておられる」(8月3日定例記者会見)と発言、「情報はつかんでいる。抵抗してもムダ」と言わんばかりだ。
都は築地市場の解体を営業終了後から始める。原告の宮原洋志さん(67歳)は「私は豊洲には行くが、築地でもやります。10軒か20軒の仲卸業者は間違いなく築地に残ります。豊洲の卸から荷を運んで販売します。私たちが営業している限り、(財産権に基づく)営業権があるから都は築地市場を閉鎖できません」と決意を述べた。
原告は裁判で闘い、日々の生活でも闘う徹底抗戦の構えだ。
(永尾俊彦・ルポライター、2018年9月28日号)
(※編注:仮処分申し立ては10月4日に棄却されたため、仲卸業者らは東京高裁に即時抗告した)