東京都の妨害に屈せず築地市場で「営業」続行する仲卸業者
永尾俊彦|2018年11月6日11:00AM
東京都の築地市場(中央区)の豊洲市場(江東区)への引っ越しが完了。築地市場の本格的な解体工事が始まる10月18日午前、憲法が保障する財産権である営業権にもとづき、仲卸業者4人が同市場で営業を行なった。
都は、同市場の正門前に設置した高さ2メートルほどのバリケードで入場を阻んだが、仲卸業者4人は西側に回り、同市場を貫通する予定の環状2号線の工事現場から市場内に入り営業。ツイッターなどで集まった「お買い物ツアー」の支援者約100人も入場し、仲卸業者の店で買い物をした。
入場の際、都の職員は「築地市場は閉場しています。入ることはできません」と繰り返し、両手を広げて通行を妨害した。
仲卸業者らでつくる築地市場営業権組合共同代表の村木智義さんが「都は(市場)廃止の法的な手続きをとってないでしょう。(閉場の法的な)根拠を示しなさいよ」と訴えるが都の職員は答えない。応援に駆け付けた熊本一規・明治学院大学名誉教授が、「仲卸業者の営業を妨害すれば、威力業務妨害罪になります」と抗議しても無視。だが、この日唯一店を開けた杉原稔さん(64歳)を、村木さんらが手伝って営業を始めると、都の職員は止めなかった。法的根拠がないからだ。銀ジャケの西京漬けなどは20分ほどで完売した。
村木さんが、「今日来てくれた方々はわれわれにとって神様です。涙が流れちゃうよ。今日は文字通り壁を乗り越えました」と感謝すると、拍手がわいた。都の職員ら数十人は、遠巻きに苦々しそうな表情で見守っていた。
同組合には、約150業者が加入。全員が豊洲市場でも営業しているが、杉原さんによれば都の職員に「築地での営業を続けると豊洲での営業許可がなくなる」と脅かされているという。「ウチの家族は応援してくれるけど、都の恫喝が原因で、豊洲で営業する家族に反対され、築地での営業を見合わせざるをえなくなった仲卸業者は多いよ」
お買い物ツアーに参加した女性(55歳)は「法的な根拠を示さない都のやり方は全く不当」と憤った。また、都の職員が無実の買い物客を「公務執行妨害容疑」などで警察に訴えるためか、何の手出しもしていない客の前で「押さないでください」と悲鳴をあげながらわざと大げさに転んだ動画がツイッターに投稿されたことを挙げ「人間性を疑う違法行為」と非難した。(11月1日現在、次のアドレスで視聴可能。https://www.youtube.com/watch?v=ZrAFfGTf2pQ )
また、50代半ばの男性は、「公権力が問答無用で事業を進めている点で、沖縄の辺野古と同じだと思いました」と感想を話した。
【都に市場解体の権限はない】
翌19日、築地市場ではバリケードの上にさらに有刺鉄線が張られた。乗り越えられなくなり、集まった仲卸業者らと「買い物ツアー」の一行は困ったが、ツアーに参加した女性(72歳)の「営業権は市場の建物の中だけではなく、市場全体に及ぶのでは」との機転の利いた発案で、市場内の駐車場で営業した。
20日は、市場敷地内の封鎖された門前で営業を続けた。両日ともに、組織的な動員はないのに60人くらいは集まった。
こうやって営業を続けている限り、都は法的には築地市場を解体できない。解体には廃止の認可が必要だが、卸売市場法では中央卸売市場を廃止するには「一般消費者及び関係事業者の利益が害されるおそれがない」ときでなければ農林水産大臣は認可できない(本誌10月19日号で詳述)。築地の闘いは、営業権という「民衆の権利」を充実させる闘いだ。
今後は、強制収用という事態も想定される。だが、熊本名誉教授は「収用するには営業権に対する補償が必要ですから、補償して収用すれば他の業者に正当な補償をせずに豊洲に移転させた違法行為がバレちゃう。だから収用などできません」と述べた。「買い物ツアー」は、10月21日の週から持久戦をにらみ、毎週火、木、土の午後1時~2時まで実施される。(※注)
編注:「買い物ツアー」は、10月28日の週から、毎週火・土の週2回(ただし、いずれかが祝日になる場合には代わりに木)午後1時からに変更。築地市場正門前集合。
(永尾俊彦・ルポライター、2018年10月26日号)