「慰安婦」題材の映画上映を極右政治団体らが妨害
『産経』は正当化か
松島佳子|2018年11月7日10:34AM
10月16日、ドキュメンタリー映画『沈黙―立ち上がる慰安婦』の上映会が開かれた神奈川県茅ヶ崎市民文化会館で感じた「気持ち悪さ」は忘れられない。開場まで1時間を過ぎた同日午後1時ごろに筆者が会場に到着すると、異様な雰囲気が漂っていた。
私服の警察官十数人が会館付近に集まり、一人の男性を取り囲んでいる。男性は警察官と言葉を交わし、その間、入り口の上映会スタッフをにらみつけていた。
男性は、人種差別団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)前会長の桜井誠氏が党首を務める極右政治団体・日本第一党のメンバーだった。差別的言動で人権侵害を繰り返す同団体は、上映会2日前の14日にも横浜市内でヘイト街宣を行なっていた。
上映会スタッフによると、男性は一人で現れ、「会場をチェックする」と言って入場しようとしたという。「入場は認められない」と断ったところ、一方的に騒ぎ立てたとのことだった。
14日のヘイト街宣の場にも「カウンター市民」として居合わせた上映会スタッフの一人は言う。
「政治団体を語りながら、ヘイトを繰り返す。そのやり方は卑劣で執拗。上映会をつぶそうとする攻撃は、こういった極右団体やネトウヨ、保守系メディアや議員により組織的に行なわれている」
【抗議殺到を『産経』が正当化】
茅ヶ崎市在住の映画監督、朴壽南さん(83歳)が手掛けた映画『沈黙』は、先の戦争で旧日本軍の「慰安婦」にさせられたハルモニ(おばあさん)たちを追ったドキュメンタリーだ。
上映会は、市民でつくる実行委員会が「戦争がもたらす惨禍とは何か。元慰安婦の女性たちの証言を通して、多角的に歴史を学べる場になれば」と主催。市と市教育委員会も「文化活動や社会教育活動の振興を支援する」という考えに基づき、後援名義の使用承認を行なっていた。
しかし、9月中旬ごろから、上映会への妨害が始まる。
〈日本軍による朝鮮人慰安婦の強制連行の証拠は無し 朝鮮人売春婦の証言だけ 日本国と日本人を貶める映画の上映を後援することは許されません〉
ツイッターに事実を歪曲した書き込みがなされると、市や市教育委員会に対して、上映中止と後援取り消しを迫る電話が続いた。
10月12日には、『産経新聞』が「『慰安婦』映画後援 茅ケ崎市と市教委に抗議殺到」と題した記事を掲載。「抗議の大半は、日本政府の見解と異なる政治的に偏った映画の上映を、中立・公平であるべき行政が後援することを問題視する内容」といった文言は、一方的に決めつける記述であるにもかかわらず、抗議があたかも正当であるかのような印象を与えていた。
記事掲載後、茅ヶ崎市議会の「自民党茅ヶ崎市議団」が市と市教育委員会の後援について抗議文を提出。抗議申し入れ時の写真を載せた議員のツイッターは、ネット上で拡散されていった。
【ネット上で増幅される悪意】
上映会の妨害は、約1カ月間、繰り広げられた。
その構図は、複数の右翼や保守系組織が連動するように電話やメール、SNSで攻撃を繰り返し、そこにメディアや政治家が絡み、攻撃を増幅させていく、といったものだった。
こういった攻撃は、茅ヶ崎市に限った話ではない。
大阪府では、歴史の授業で日本軍「慰安婦」を教え続ける女性教諭に対して、ネット上で酷いバッシングが起き、それを保守系議員が議会で追及するなど、同様の構図が生まれている。
攻撃の根底には何があるのか。それは「政治的中立性、公平性」の話ではない。茅ヶ崎市のある職員は、抗議と称した電話の会話をこう明かした。
「電話口で、突然『お前、朝鮮人だろ』『国へ帰れ』と言われました。それも、一度や二度ではありません。朝鮮や韓国の方、在日コリアンの方に対する差別があるのだということを思い知らされました」
(松島佳子・『神奈川新聞』記者、2018年10月26日号)