劣悪な「簡易個室」を公認?
生活保護法改正の危うさとは
みわよしこ|2018年12月19日1:24PM
2015年5月、川崎市の無料低額宿泊所で火災があり、11人が死亡した。17年5月には、北九州市の簡易宿泊所で火災があり、6人が死亡した。18年1月、札幌市の共同住宅「そしあるハイム」で火災があり、11人が死亡した。いずれの事例でも入居者には身寄りのない高齢の生活保護受給者が多数含まれていた。援助つき高齢者施設に近い実態とともに、防火対策の不備が問題とされた。
老朽化したアパートや下宿を低廉に借りたり無償提供を受けたりして、生活困窮者に一時的な生活の場、または「終の住処」を人的援助とともに提供する活動は全国各地で長年にわたって続けられている。そこでは入居者が管理されてプライバシーのない生活を余儀なくされるのではなく、地域の住まいで援助を受けながら、地域の一員として過ごすことができる。
だが、担い手の多くは、体力も経済力も少ないNPO(非営利組織)だ。建物に万全の防火対策を施す余裕はないし、建物もスプリンクラーの設置には耐えられないことが多い。とはいえ、他に行き場のない人々が、「建物に殺される」形で最期を迎える事態は、あってはならないだろう。
今年6月、再改正された生活保護法の中で、このような施設や共同住宅等が「日常生活支援住居施設」として位置付けられることとなった。無料低額宿泊所や簡易宿泊所は、あくまでも一時的な仮住まいだが、実際には長年の生活の場となることが少なくない。入居者は多様な困難を抱えていることが多いため、食事や日常生活支援を提供している場合もある。その実態が追認された形だ。
11月からは検討会が開催され、具体的な内容の検討が始まっている。入居者に一定の安心を保障し、運営主体に安全設備の整備費用や人件費など必要な経費を保障する動きは、大いに歓迎したい。
しかし現在浮上しているのは、間仕切り壁で仕切られた「簡易個室」が公認される可能性だ。「簡易個室」とは、たとえば6畳の1室をベニヤ板で二つに区切って3畳の「個室」としたもので、無料低額宿泊所、特にいわゆる「貧困ビジネス」に広く見られる。
【廃業を迫られる施設も?】
現在のところ無料低額宿泊所は相部屋であることも珍しくない。「簡易個室」は、とにもかくにも自分のスペースが存在するだけ、劣悪さは少ないのかもしれない。しかし、隣の寝言や匂いが漂ってくる「簡易個室」で、「自分の生活ができている」という実感を持てるだろうか。火災等の際には、間仕切りのために避難経路が確保しにくくなる可能性もある。
検討会資料によれば、厚生労働省は今後「個室」を原則とし、相部屋は認めない方針だが、「簡易個室」は認められそうだ。
このことは、いわゆる大規模「貧困ビジネス」に対しては大きな影響を与えないだろう。建物は比較的堅牢な鉄筋・鉄骨アパートであることが多く、スプリンクラーの設置に関する困難は少ない。そして「簡易個室」は、貧困ビジネスに広く見られる形態だ。ある事業者の例では、個室40%・簡易個室30%・相部屋30%となっている。「防火対策」を理由としてスプリンクラーの設置が義務付けられ、同時に相部屋が認められなくなり「簡易個室」が公認された場合、相部屋を「簡易個室」化する必要はある。しかし、事業者の減収は非常に少なく抑えられる可能性が高い。その一方、老朽民間アパートなどを活用した小規模な共同住宅等で見守りや生活援助を受け、名実ともに地域のアパートで地域の一員として暮らす選択肢は消滅しかねない。
厚生労働省「社会福祉住居施設及び生活保護受給者の日常生活支援の在り方に関する検討会」は、間仕切り壁と「簡易個室」に関する結論を、12月中に出すと見られる。注目をお願いしたい。
(みわよしこ・ライター、2018年12月7日号)
編注:12月17日、厚労省は第2回検討会で簡易個室と間仕切り壁を段階的になくす方針を示した。