安倍政権、「幼保無償化」で地方自治体に負担要求
小石勝朗|2018年12月25日5:58PM
安倍晋三首相が唐突に「幼児教育・保育の無償化」を打ち出し、それに伴う消費増税の使途変更を衆院選の大義名分に掲げたのは、1年余り前のことだった。
政府の今の計画では、来年10月から認可保育所に通う3~5歳児は全員の保育料が無償化される。0~2歳児は住民税非課税世帯が対象だ。幼稚園は月額2万5700円まで適用。認可外の保育施設でも、保育の必要性を自治体に認定された3~5歳児には月3万7000円まで補助をする。
無償化を喜んだのは、私たち未就学児の親だけではない。地方自治体も同様で、子育て支援に熱心なところほど期待は大きかった。ふるさと納税を活用して町立認定こども園の保育料を2025年度まで10年間、無償化している北海道上士幌町は「億単位の財源が浮くと見込まれ、子育て支援をさらに充実できる」と話していた。
ところが、政府の具体案が明らかになるにつれ、地方から「ちょっと違うんじゃないのか」という怒りと嘆きが渦巻き始める。政府が無償化の費用を自治体にも負担させる方針を示したからだ。特に強く反発したのが、現場の実務を担う市区町村。全国市長会は11月15日、「国の責任において全額を国費で確保すること」を求める緊急アピールを出した。
政府は12月3日の全国知事会、全国市長会、全国町村会との協議で、無償化に必要な年約8000億円のうち約3000億円を市区町村に拠出させる案を伝え、3団体も受け入れた。上士幌町のような公立施設については全額が市区町村の負担とされた。
政府は費用負担を求める根拠として、消費増税による増収分の3割が地方に配分される点を強調する。「この分を国に従って無償化に使え」というわけだ。
また、独自財源を充てて保育料を国基準より3~4割軽減している市町村が28%で最多とする調査結果(16年度)も利用する。「軽減の財源の使途を無償化に変えるだけだ」と主張したいようだ。
【国が全額負担すべきでは?】
しかし最大の問題は、衆院選の時には何も語られず議論もされていなかったことだろう。地方への相談なしに安倍首相が一方的に公約にした政策であり、自治体の側が「費用も全額国が負担する」と認識したとしても無理はない。
市民団体「保育園を考える親の会」は11月後半、政令指定都市や東京23区など100市区に緊急アンケートを行なった。自治体に負担を求める無償化に「反対」が26、「無償化より優先してほしい施策がある」が35で、「賛成」は2。有効回答の97%が見直しを望んだ。
このまま実施された場合の影響(複数回答)としては、「待機児童対策に悪影響を与える」が最多で32、「保育の質の確保策に悪影響を与える」が29だった。
自由記載欄には「国の政策判断で無償化がなされるのに、市町村に大きな負担が生じるのであれば理不尽だ」「各自治体が独自に進めている保育施策を圧迫し後退させる原因となり得る」として、財源は国が確保するよう求める声が目立つ。制度設計をきちんとするため、開始時期を遅らせるべきだとの意見も寄せられた。
課題はほかにもある。
認可外保育施設について、各自治体が条例で独自基準を設けて無償化の対象範囲を定められるようにする案が浮上。安全確保の観点からの対応だが、認可園に入れずやむを得ず認可外に通う子どもが除外されることになりかねない。
保護者の側から見過ごせないのが給食費の扱いだ。認可保育所の3~5歳児の場合、現在は月約3000円の主食費だけが保育料と別に実費負担だが、政府は保育料に含まれている月約4500円の副食費も実費負担にする方針。全額が実費負担の幼稚園との公平性確保を理由に挙げる。
しかし、この方向が出てきたのも今年度に入ってから。「保育料相当分は無料になる」と受けとめて自民党に投票した保護者にすれば、釈然としないのではないか。
(小石勝朗・ジャーナリスト、2018年12月14日号)