これでいいのだ、イギリスのEU離脱
浜矩子|2018年12月30日7:28PM
イギリスがEU(欧州連合)から出て行こうとしている。2019年3月29日がその期限だ。波乱万丈の交渉を経て、離脱条件について何とか合意に漕ぎつけた。
もっとも、まだまだ予断は禁物だ。この合意に対して、イギリス議会で承認を得られるかどうかが、まだいたって不透明だからである。議会内にはゴリゴリの離脱組もいれば、いまなお残留願望が強い向きもいる。そのいずれもが、今回の離脱合意に納得していない。離脱組はこんなもの離脱じゃないという。残留組は、これでは離脱し過ぎで、失うものが多すぎるという。テリーザ・メイ首相が板挟みを食らって押しつぶされそうになっている。
こんなすったもんだをしてまで、イギリスはEUから立ち去って本当にいいのか。何とか、国民投票のやり直しで、離脱を反故に出来ないのか。こうした考え方が、イギリス国内にも結構根強い。
それも解る。何しろ、40年余りにわたって同居して来た相手との離婚である。共有財産もしっかり増えている。しがらみもある。役割分担も出来上がっていた。お互いに対する心情はさておき、実態的には生木を裂くような面が多々ある。無痛決別というわけにはなかなかいかない。犠牲が大き過ぎるという指摘はごもっともだ。
だが、筆者はやっぱりこれでいいのだと思う。イギリスと大陸欧州とは、本質的なところで体質が違う。かたや島国。かたや多くの国々が国境を接する地続きの世界だ。地続きのご近所付き合いは難しい。よほどルールをしっかり確立しておかないと、もめ事になる。だから、政治主導で枠組みを決めるところから、全てを始める。これが大陸欧州流だ。
だが、海洋国イギリスは、何かにつけて行き当りばったりの成り行き任せだ。波のまにまにたゆたいながら、バランスを取って行く。荒波を乗り切って行くには、何んでもかんでも予めキチキチ決めておいても仕方ない。臨機応変、融通無碍。それが海洋国イギリスの処世術だ。
そんなイギリスが、大陸流の窮屈なルール先行の世界に仲間入りしたのは、そもそもなぜだったか。それは、要するに経済上の実利勘定だ。いじわるな言い方でいえば、打算である。40年以上前のあの時、イギリスが統合欧州の門戸を叩いたのは、関税同盟結成の初期的効果で、大陸欧州経済がめっぽう景気よくみえていたからである。
あっちの水が甘そうだ。そう思って、イギリス蛍がフラフラと統合欧州に引き寄せられて行った。理念や理想や論理を詰めた上で、統合欧州という名の共同体に仲間入りすることを決意したわけではなかった。
ところが、最終的にイギリスが当時のEC(European Community:欧州共同体)入りを果たした時、大陸欧州の統合景気は既にピークを過ぎ、下り坂に向かい始めていた。「こんなはずじゃなかった」。イギリスのEUライフはこの思いから始まったのである。そもそもこの時点で、何となく騙されて仲間入りしてしまった感を抱いた向きも少なくなかったろう。この際、改めて新しいご近所付き合いの形を見出して行くといい。
(はま のりこ・エコノミスト。2018年11月23日号)