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水道民営化は水メジャー救済策? 
海外ではトラブル続出も

吉田啓志|2019年1月18日11:52AM

先の臨時国会では、安倍政権が採決を強行した改正出入国管理法の陰で、野党を押し切って強引に成立させた法律がほかにもあった。自治体の水道事業運営権を民間に売却できるようにする改正水道法だ。海外では水道の民営化を巡ってトラブルが相次ぎ、再公営化された事例も多い。にもかかわらず、政府は不安の声にまともに向き合っていない。

水道事業の大半は市町村が経営している。しかし、人口減と配水管などの老朽化が重なり、多くの過疎地では水道存続の危機に直面している。全国平均の水道料(月額3227円)は30年で3割アップ、水道管も15%が法定耐用年数(40年)を超えた。給水人口1万人未満の事業者では、半数が赤字となっている。

料金格差も大きい。2017年4月時点で、全国最安の兵庫県赤穂市(平均月額853円)と最高の北海道夕張市(同6841円)では8倍に達する。寒冷地は水道管が傷むのも早い。

国が課題解決策として打った手が、来秋の施行を目指す水道法改正だった。柱は二つで、一つは自治体間の広域連携だ。水道事業の統合・広域化に向け、都道府県が市町村協議会の設置をできるようにする。

ただし広域化に関しては、浄水場が廃止される自治体の反発などで頓挫した前例もある。北海道のある町の担当者は「財政難の自治体同士で広域化しても基盤強化にならない」と漏らす。

もう一方の柱が「官民連携」。自治体が設備の所有権を持ったまま運営権を長期間、民間に売却するコンセッション方式の導入だ。

「すさまじい利益相反」「受験生が採点する側に潜り込んで、いいように自分の答案を採点するようなものだ」。11月29日の参院厚生労働委員会で、社民党の福島みずほ氏は水道法の改正を急ぐ政府に強く抗議した。

【海外「水メジャー」救済策?】

国会審議の焦点は、コンセッション方式の是非だった。安倍政権は13年に閣議決定した日本再興戦略で公共部門の民間開放拡大を打ち出し、同方式を進めてきた。お得意の成長戦略の一環だ。ところが同日の厚労委で福島氏は、担当の内閣府民間資金等活用事業推進室が、仏の水道業大手・仏ヴェオリア社の日本法人から出向職員を受け入れていることを暴露した。同方式推進を主導してきた菅義偉官房長官は「(出向職員には)国家公務員の服務規律を遵守させている」と言うが、野党は「再公営化が進む海外で業務ができなくなった水メジャー(大企業)を救済する仕組みだ」と反発している。

実際、海外では水道民営化を巡り、料金高騰や水質悪化などの混乱が相次ぐ。南アフリカでは汚染水を使いコレラが蔓延した。水質が悪化した米アトランタでは、4年で公営に戻った。厚労省によると、民営化されたあと、再公営化された例は00年~14年で180件(35カ国)。それなのに同省は、3例しか調べていなかった。

改正法には、国などが事業計画、料金設定を審査する許可制、自治体の監視体制を確認する仕組みが盛り込まれた。厚労省は「料金の高騰や供給の不安定化は起こりえない」と説明する。それでも、契約は20年以上など長期となる。その間、自治体からノウハウが失われ、問題が生じたときに対処できなくなる可能性は残る。立憲民主党は「水質維持と安定供給という公共性を担保させる対策がまったくない」と批判している。

コンセッションの代表的な事例が関西空港だ。9月の台風21号で冠水し、約8000人の利用者や職員が一時取り残されたことは記憶に新しい。水道事業に関しても、災害時に給水車の派遣などが民間企業にできるのか、といった疑問は尽きない。

水道局の民営化を目指した大阪市では昨年、「運営会社の破綻時に代替企業がない」として、条例案が廃案となった。「官民連携」について、英国では会計検査院が割高との調査結果を公表し、財務相が10月末、「今後新規事業は実施しない」と表明している。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2018年12月21日号)

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