関西地区生コン労組で大量逮捕 共謀罪適用の「リハーサル弾圧」か
土岐直彦|2019年2月13日10:27AM
セメントや生コン業界の労働者でつくる「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部」(大阪市、通称・関生支部)による「正当な組合活動」に対し、大阪府警と滋賀県警が昨年夏から威力業務妨害などの容疑で組合員らを大量逮捕している。逮捕・再逮捕者は1月下旬までに関生支部執行委員長をはじめ延べ46人。弁護団によると、同様の嫌疑をかけて京都府警も家宅捜索を繰り返し、奈良・和歌山両県警の動きも要警戒という。共謀罪・秘密保護法対策の両弁護団は、膨大な電話履歴やメールを収集して関係者間の共謀を立証しようとしている点で「共謀罪型弾圧の大規模な開始を告げるもの」とする「弾圧抗議声明」(2018年12月6日付)を出した。
関生支部は関西地区の生コン輸送のミキサー車運転手を中心にした産業別組織で、組合員は約1600人。企業の枠を超えて、反戦平和、反原発、反基地などを掲げる「闘う労組」として知られる。
両府県警は合わせて5件を立件した。最初の検挙は18年7月、滋賀県警による恐喝未遂容疑事件。公訴事実では、関生支部組合員らは17年3月、滋賀県湖東地域の事業者でつくる湖東生コン協同組合幹部らと共謀。東近江市内の倉庫建設を請け負った準大手ゼネコンに、協同組合非加盟業者からの生コン納入を止めて協同組合からに切り替えるよう働きかけたが断られた。このため、発注業務を担う関連商社大阪支店に対し「大変なことになりますよ」と迫り、脅迫したなどとする。関生支部の委員長・副委員長・執行委員と協同組合の事業者ら計10人が逮捕された。組合幹部は同席していなかったが、その指示で動いていたとして「共謀」と位置付けられた。
ところが、1月18日に大津地裁であった証人尋問で商社支店幹部の一人は、面談での肝心の「脅迫」内容を「記憶にない」と明言。被疑事実に重大な疑義を抱かせた。
【各府県警が弾圧競争か】
湖東生コン協同組合は、共同受注・共同販売を行なうことで、大企業と対等な取引が可能となるとして結成。関生支部も組合員の労働条件の改善のため協同組合の活動に協力してきた背景がある。
さらに滋賀県警は別事案での威力業務妨害容疑で18年11月に8人を逮捕・再逮捕した。大手住宅メーカーによる大津市内の住宅建築現場で17年2~3月、組合員らが生コン納入作業の軽微な不備を「法令違反」と指摘するなどして業務を中断させたというもの。
関生支部は建設・建築現場のコンプライアンス(法令順守)活動や安全パトロールを組合活動で重視。「よりよい生コンの品質を届ける責任がある」と説明する。
事件を大阪府警が拡大させた。府警は18年9~11月、大阪市内の生コンプラントやセメント製造販売会社で、輸送車両前に立ちはだかった組合員らの行為を威力業務妨害容疑で立件。三つの事件現場で計28人を逮捕・再逮捕した。
被疑事実はいずれも17年12月のストライキ時の行動。関西地区の労使間の約束だった輸送運賃の速やかな引き上げなどを求めて関生支部が実施した労働運動だ。
憲法28条は勤労者の団結権・団体交渉権・争議権を規定。労働運動には刑事免責条項が労働組合法と刑法にある。横暴な経営に対抗するストやピケは正当な行為だ。
弁護側が共謀罪型の弾圧とするのは(1)現場にいなかった組合役員らを一網打尽に逮捕、「業務妨害目的で共謀」と認定、(2)その容疑自体が通常は立件しない軽微な事案なのに「業務妨害や嫌がらせ目的の共謀」を付け加えて犯罪化。頭の中で考えたことを罪に問う共謀罪の悪法性を示す――とする。
大阪と滋賀両方の事件の被告弁護人を務める永嶋靖久弁護士は「関西の各府県警が弾圧の競争をしているように見える。このままでは『共謀』が労働運動だけでなく市民運動弾圧の手段として使われる恐れがある」と懸念する。
市民団体の支援も広がる。東京都内では昨年12月15日に「組合つぶしの国家的弾圧を許さない!」との緊急集会。京都市内では2月12日に同様の支援集会が開かれる。
(土岐直彦・ジャーナリスト、2019年2月1日号)