千夏さん、排除される
小室等|2019年2月21日9:45PM
辺野古沿岸部へ土砂投入実行の前日、昨年一二月一三日。米軍キャンプ・シュワブ正面ゲートで機材搬入トラック阻止座り込み最前列にいた中山千夏さんが排除される現場を、一緒に座り込んでいた千夏さんの事務所の敬子さんが咄嗟に従軍記者化し写真を撮ってフェイスブックにアップした。
それを見た小室はひそかに思いましたね。千夏さんにはもう少しひどい目に遭ってもらって、その結果、ニュースネタとしてメディアが取り上げるということになってほしかったと。
千夏さんを排除したのは沖縄県警機動隊員で、千夏さん曰く「機動隊のスリムな兄ちゃんたちは、マニュアルどおりの老人介護、という感じで、私をそっと扱った。痛くも痒くもなかった」(『伊豆新聞』)ということなので、事件は大々的に報道されるには至らなかった。安倍政治の暴挙を世に知らしめるはずだったのに、残念。
昔、「ハイサイおじさん」でブレイク寸前の喜納昌吉さんと東京で知り合い、彼に呼んでもらい、観光気分では行けないと二の足を踏んでいた沖縄入りを果たした。
喜納さんに案内され訪れた陶芸家の家で飼われていた精悍な顔つきの沖縄豚。陶芸家は言う。
「純粋な沖縄豚はこいつが最後の一頭。小室さん、こいつはね、俺なんですよ」
昌吉さんのバンドメンバーの家に行く途中のサトウキビ畑で、プレハブでできた家の窓から顔を出す笑顔の男性に挨拶。
「彼はアルコール依存症。何度入院治療して出てきてもすぐ戻ってしまうので、プレハブを建てて村のみんなで面倒を見ている」
家族は村にちゃんといるのに。
四半世紀以上前、つい昨日まで「日の丸」を掲揚する学校は皆無だったのに、一夜明けたら国旗掲揚だと言う。読谷高校の卒業式で女子高生が壇上の「日の丸」を奪い取り、「先生は昨日まで『日の丸』は揚げないのだと私たちに言っていたのに、なぜ今日から挙げろと言うのですか?」と泣きながら訴える。教師たちは答えられない。
知花昌一さんは答えられない教師たちに代わって、沖縄国体、読谷村のソフトボール会場に掲げられた「日の丸」を引き下ろし焼いた。持ち回りで行なう国体は人々を右へ倣えさせる道具だ。
少し前まで沖縄に「“呆け老人”(認知症)はいない」と聞かされた。本土で認知症と呼ばれるであろう老人は、たとえばサトウキビ畑の脇で子どもの相手をする「仕事」があるので範疇に入れてもらえないのだ。
よき沖縄を、本土のわれわれが踏みにじってゆく。
(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2019年1月11日号)