安倍首相は将来世代へのツケ回しを止めよ
鷲尾香一|2019年2月22日7:00AM
1月4日、安倍晋三首相は恒例の年頭記者会見を行なった。
この中で、首相は10月から幼児教育の無償化を実施することに触れ、これは、戦後、小学校・中学校9年間の普通教育が無償化されて以来、70年ぶりの大改革となることを上げ、「安倍内閣は、次代を担う子どもたちの未来に大胆に投資していきます」と強調した。
また、財源となる消費税の引き上げについては、「本年、頂いた消費税を全て国民の皆様にお返しするレベルの十二分の対策を講じ、景気の回復基調をより確かなものとしてまいります」と述べた。
さらに、社会保障制度全般にわたる改革の検討に入るとし、「我が国の社会保障制度を子供から子育て世代、現役世代、高齢者まで全ての世代が安心できるものへと改革していく」と宣言した。
平成の最後となる今年、10月に消費税率は8%から10%へと引き上げられる予定だ。思えば、消費税が初めて導入されたのは、平成元年(1989年)だった。平成期はまさに、「消費税」を象徴する元号となる。
平成元年の消費税導入にあたって、当時の竹下登首相は「(この改革が)我が国経済社会の活力を維持し、(中略)豊かな長寿福祉社会をつくるにふさわしい、より公平な税体系の構築が図られるものと確信」していると述べた。
だが、平成期は社会保障費が増大した。平成元年の社会保障費用(医療、年金、福祉その他の合計) は45兆554億円だったが、今や約120兆円にまで膨張している。
「医療」と「年金」が2倍程度の増加なのに対して、高齢者福祉や生活保護などの「福祉その他」が約5倍も増加した。
「福祉その他」の増加は、(1)高齢者介護費の増加、(2)生活保護予算の増加、(3)障害者福祉や子ども・子育て支援に要する経費の増加によるものだ。
その後も、政府は消費税を社会保障の充実に結び付けることで、消費税に対する不満を抑えようとした。そして、社会保障は時を経るごとに、全世代型社会保障にまで拡大し、政府は「社会保障費の財源」として、これに合わせるように消費税率が引き上げられた。
しかし、社会保障費の増加は消費税の導入だけでは賄いきれなかった。結局、平成期に財政状況は悪化の一途を辿った。平成2年度には赤字国債体質から脱却したものの、平成6年度補正予算で赤字国債の発行が再開し、赤字国債依存の財政状況が恒常化した。
平成30年度予算時点で赤字国債の発行額は27兆5982億円、国債依存度は34.5%になっている。そして、地方のプライマリー・バランス(基礎的財政収支)は赤字が続いており、これは年度ごとの政策的経費を税収で賄えていないことを意味する。そして、プライマリー・バランスの赤字は、現在の世代が支払うべき負担を後世の世代にツケ回していることになる。
消費税導入と消費税率の引き上げの裏側では、赤字国債が増加し、財政の悪化が進んだ。これは、将来世代に対して、大きな負担を押し付けていることにほかならない。
安倍首相が次代を担う子どもたちの未来を本当に明るいものとしたいのなら、将来世代へのツケ回しはすぐにでも止めるべきだ。
(わしお こういち・経済ジャーナリスト。2019年1月18日号)