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統計不正巡り野党「アベノミクス偽装」追及
官邸の指示は?
吉田啓志|2019年2月25日11:24AM
厚生労働省の毎月勤労統計の不正を巡り、安倍政権の事実解明に後ろ向きな姿勢が際立っている。森友・加計学園問題のように「守り」を固めて逃げ切ればいい、との本音が見え隠れしている。
「厚労省に参考値は出させない」。自民党幹部は、衆参予算委員会で与野党の争点に浮上している実質賃金の参考値公表について、周辺にそう語っている。
名目賃金から物価変動の影響を除いたものが実質賃金だ。厚労省は2月8日、集計方法の不正を補正した2018年の実質賃金指数(速報値)が前年比0・2%増だった、と公表した。
ただ、調査対象の企業は毎年一部を入れ替えている。17、18年と続けて調査対象となった事業所同士を比べた参考値を重視すべきというのが総務省の統計委員会の見解。これに沿った試算を基に野党は同日、「マイナス0・4%になる」と主張した。
政府は、名目賃金については同じ事業所で比較した参考値を示している。名目賃金より実質賃金の方が生活実感に近い。それなのに、実質賃金の参考値となると、「サンプル数が少ない」として、公表を拒み続けている。
一方で、都合のいい数字を強調することには積極的だ。
5日の衆院予算委員会。「アベノミクス偽装」と追及する野党に対し、安倍晋三首相は「(1人当たり賃金を示す毎月勤労統計より)総雇用者所得の方が経済の実態を表している」と反論した。総雇用者所得は18年1~11月の実質が2・3%増となっている点を力説している。
ただ、1人当たり賃金が下がるなかで総雇用者所得が増えたのは、非正規雇用が増加したことの裏返しでもある。この5年で増えた雇用者数363万人中、非正規は205万人で56%を占める。国民民主党の玉木雄一郎代表は「低所得で働かざるを得ない人が増えているだけ」と指摘する。
【幕引きを図る政権側】
自民党は7日、一貫して否定してきた厚労省の大西康之前政策統括官の国会参考人招致を受け入れた。大西氏は統計不正の真相を最も知る官僚だ。
根本匠厚労相は1日、大西氏を「官房付」に更迭。「現職ではない」と、野党が求める大西氏の国会招致を渋ってきた。更迭理由は、賃金構造基本統計の調査で不正があったというもの。しかし、処分の時期が不自然なうえ、不正を報告しなかった担当室長はお咎めなしとバランスを失していた。一転しての招致容認には、「証人隠しだ」という野党の批判を抑えきれなくなった事情もある。
ただし、自民党国対からは早くから「大西氏はカード」との言葉が漏れてきていた。端から19年度予算案の審議入りと引き換えにする腹だったようだ。同党幹部は「モリ・カケと違って首相に直結する問題がなく、大西氏の招致の影響は小さい」と語っていた。
重要な資料やデータを示さず、証人の口をふさぐのは、安倍政権のお家芸でもある。陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報については、1年以上「ない」と言って隠し通した。「モリ・カケ」問題では公文書を改竄したうえ、その当時財務省の理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官らの国会招致をギリギリまで拒否し続けた。
今回の雇用保険などの給付漏れは、1人1400円ほど。何百万円ももらい損ねた人がいて、第1次安倍政権を直撃した年金記録漏れ問題とは様相が異なる。「第二の消えた年金問題に」との野党の意気込みも空回り気味で、内閣支持率に大きな変動はみられない。
1週間のお手盛り調査で「組織的隠蔽はない」とした厚労省特別監察委員会への批判を受け、賃金構造基本統計の不正は総務省が担う。とはいえ外部有識者は入れない。「急げという官邸のご指示」に配慮したからという。
「野党もネタ切れ」。自民党内でこう囁かれるなか、近く厚労省監察委の再調査結果を公表、状況次第では実質賃金の参考値も明かして幕引きを図ろうというのが安倍政権の思惑だ。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2019年2月15日号)