閣議決定された「アイヌ新法案」
自治権・自決権明記せず
2019年3月5日11:30AM
「(北海道)アイヌ協会の中に本当にアイヌの血を引く方は2割くらいしかいない」。2月7日、自民党の青山繁晴参院議員がこう発言した。2月15日に閣議決定の「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案」(「アイヌ新法案」)に関連してのこと。同協会(理事長・加藤忠)は本誌の取材に「事実と異なる」と否定。同協会は1946年に設立された北海道に居住するアイヌ民族を主な構成員とした組織だ。法案はアイヌ民族を先住民族と初めて明記したが、その立案・審議に関わる国会議員が、アイヌ民族の中心的団体の先住民族性に疑問を投げかけた形だ。法案の中身が心配になってくる。
内閣官房アイヌ総合政策室と新法をめぐり7回にわたるチャランケ(話し合い)を重ねてきた「先住民族アイヌの声実現!実行委員会」(共同代表:川村シンリツ・エオリパック・アイヌ/多原良子)に同月13日、本誌は見解を聞いた。
「まず法案には、過去の植民地支配の結果としてこのような法律が必要になったことが明記されていません」と多原共同代表はいう。さらに、「2007年の『先住民族の権利に関する国連宣言』を参照し、先住民族アイヌの自治権、自決権、それを保障する土地や領域、資源の回復と補償を受ける権利に言及する必要がありますが、入っていません」と指摘する。
1997年に北海道旧土人保護法が廃止され、アイヌ文化の理解促進を目的とするアイヌ文化振興法が成立したが、アイヌの窮乏と同化を止めることができなかった。「北海道アイヌ生活実態調査」に応じるアイヌ民族が06年には2万3782人いたが、13年には1万6786人、17年には1万3118人に激減したことからもわかる。
新法案は国土交通委員会に付託される。多原さんたちは法案への理解を深めてもらうため、各党に現在働きかけを行なっている。
(編集部、2019年2月22日号)