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パスポート返納期限は5分!? 
フリー記者・常岡さん「出国禁止」の異様さ

渡部睦美|2019年3月7日9:54AM

外務省からファックスで送られてきたという「返納命令書」。(撮影/常岡浩介)

内戦が続くイエメンで飢餓の実態を取材しようとしていたフリージャーナリストの常岡浩介さん(49歳)が外務省から旅券返納命令を出され、出国を阻止された。ジャーナリストへの返納命令は2件目で、いずれもフリーが対象にされている。根拠は旅券法だが、憲法が保障する海外渡航の自由を侵害しているなどの批判や、海外取材の萎縮につながるとの懸念が出ている。

常岡さんは昨年12月、イエメンのビザを取得した後、経由地オマーンのビザも取得。取材の手はずを整え、今年1月中旬にオマーンへ向かったが入国拒否された。常岡さんによると、「オマーンの入管(入国管理局)で働く友人に問い合わせたところ、入国拒否の背後で動いたのはオマーンの警察で、それは日本大使館が私に関する情報を警察に提供したためだと説明された」という。

【警察からの「行動確認」】

強制送還され帰国した常岡さんは、経由地をスーダンに変える計画を立て、1月30日にスーダンのビザを取得した。すると翌日の31日、常岡さんの妻の家に制服警官がやってきて「旦那さんは?」と尋ねてきたという。翌2月1日には、常岡さんのもとに警察から電話があり、出張の予定を聞かれるなど「行動確認」された。そうして出発日の2月2日、常岡さんが羽田空港の出国審査場を訪れると、「自動化ゲート」を通れず、画面には、「パスポート情報は登録されていません」との説明が映し出された。入管職員が外務省に問い合わせると、旅券返納命令が出ていることが判明。その場でファクスで命令書を受け取った常岡さんは、電話越しで外務省から説明を受けた。

命令書には、「当該旅券が下記期限内に返納されなかったときは、その効力を失う」と書かれていたが、ファクスが送られてきたのは午後11時15分、返納期限はその5分後の午後11時20分だった。そもそも、自動化ゲートを通った時点でパスポートは無効化されていたので、実際はわずか5分の返納期限すら存在していなかったことになる。常岡さんが返納命令を拒否すると告げると、外務省は「警察への通報を検討します」と述べたという。旅券法第23条によると、命令に従わない者は「五年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金」に処される可能性がある。

しかし旅券法に基づく返納命令は妥当なのか。外務省は、オマーンで入国拒否をされた常岡さんは、旅券法第13条第1項第1号の「渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者」に当たり、同法第19条はこの該当者に対して「旅券を返納させる必要があると認めるときは」「期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる」と規定していることが命令の根拠だとしている。

これに対し、「危険地報道を考えるジャーナリストの会」は2月12日、「ジャーナリストの取材活動に対する明白な妨害であり、憲法が保障する海外渡航の自由を侵害する」「民主主義を支える表現の自由や国民の知る権利への重大な侵害にあたるもの」との声明を出し、命令の撤回を求めた。常岡さんの出身地の長崎では、「言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会」が14日に会見を開き、「渡航や取材・報道の自由を侵害する違憲・不当な命令」であるとする抗議声明を発表。「経由地に過ぎない(中略)オマーンへの入国を拒否されたことを理由に旅券の返納を命じるのは、法律の濫用であり、不当である」ともした。

【「必要あるとき」の根拠が薄弱】

報道制作会社ジン・ネット代表の高世仁さんは、「通過点にすぎないオマーンで入国拒否されたことが返納命令の理由では、旅券法が定める『必要あるとき』との根拠が薄弱で今後歯止めがきかなくなる懸念がある」と指摘。「常岡さんの話の通り、日本側がオマーン警察に働きかけたとすると、日本側が人物を選定して自由な移動を制限したことになり、由々しき問題」とも話した。高世さんのもとには、複数のジャーナリストから連絡があり、「非人道的な国の圧政についての取材をしていて入国拒否をされたとしても、返納命令の対象にされる可能性があるのではないか」「突っ込んだ取材がしにくくなる」「萎縮してしまう」などの声が寄せられたという。

高世さんはさらに、「フリーだから常岡さんが狙われた。組織ジャーナリストとの分断も心配。ジャーナリズム全体がこの問題を真剣に考えるべき」とした。2015年にも、シリアに渡航しようとしたフリーカメラマンが旅券を強制返納させられ、命令の取り消しを求め提訴したが、昨年3月に最高裁で敗訴が確定している。常岡さんは、来月4月に国賠訴訟を起こす予定だという。

(渡部睦美・編集部、2019年2月22日号)

 

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