統計不正問題、野党は正念場
佐藤甲一|2019年3月10日2:24PM
野党5党の正念場がいよいよ訪れた。立憲民主党の枝野幸男代表は1月16日、今月28日に召集される通常国会を前に野党5党の党首会談を呼びかけた。すかさず共産党の志位和夫委員長が「歓迎する。ぜひ成功させたい」と同調した。
党首会談の目的は、7月21日投開票とみられる参議院選挙における選挙協力、そしてその体制作りのベースとなる通常国会での共闘をどのように進めるかだが、気がかりは、共産党との相性が悪い国民民主党がどう動くかだ。
枝野氏の呼びかけは、ようやく、と言ってもいい。昨年来、自由党の小沢一郎氏に「野党第一党が軸にならなければ駄目だ」と促されながらも、「自分たちのやり方で進めたい」と野党連携に消極的だった。国民民主党と協働すれば結局は旧民主党や2017年秋の衆議院選挙で徒花となった希望の党のイメージと重なる。
とはいえ、2年前の結党時には10%を楽々超えた支持率も最近では一桁台。正月には党幹部による伊勢神宮参拝を公式ブログにアップしたことが、支持者の批判の対象になった。このままでは「万年野党」に陥っていくかと危惧した矢先、「神風」が吹いた。厚生労働省の「毎月勤労統計」における不適切な調査問題だ。
この問題にはいくつもの「不正」が重なっている。
(1)なぜ04年に全数調査を抽出調査に代えたのか
(2)「マニュアル」を作って調査継続の道筋をつけたのは誰か
(3)そのマニュアルから「抽出調査」も可能とするくだりを削ったのはなぜか
(4)18年初頭に修正値をかけるようにしたのは誰か
(5)一方、大臣名で総務省に「全数調査」を報告する文書を作ったのは誰か
(6)昨年夏、堂々と「抽出調査」を主要都市に拡大する方針を決めたのは誰か
──など、枚挙にいとまがない。
不正確な調査と知っていたのなら(6)のようなことは、常識では行なわない。もし調査を継続していた職員が「適正」だと信じ込んでいたら(4)は行なわない。
18年に起きた(4)(6)だけを取り上げても不可解さは募るばかりである。しかも、調査結果が廃棄されていたとあっては、統計の復元もなしえない。財務省の公文書改竄を公務員倫理に関わる歴史的不祥事とすれば、今回の不正確調査の継続は、「国家の計」を過つ歴史的な犯罪、と言っていいのではないか。
菅義偉官房長官は1月16日、厚生労働省の内部調査がまだ緒についてもいない段階で「統計法の違反」に言及した。役所の行動を「違法」と認めるのは異例の早さといっていい。「違法」性を政府自ら認めた以上、何らかの処分は必至である。
厚生労働省は昨年7月にも裁量労働制の不適切なデータ処理問題で事務次官以下幹部5人が戒告、訓告などの処分を受けた。不利益を被った労働者はおよそ2000万人、追加給付費用は795億円、19年度予算案の修正、再閣議決定など、その影響は前代未聞、といえる。「違法性」を認め、関係者の処分を急ぐことで、その影響を最小限に食い止め、統一地方選挙や大阪・沖縄の衆議院補欠選挙、さらには参議院選挙への波及をかわしたいという政権の意向は明らかだ。
これで野党が勢いづかなければ、なんのための野党か、となる。まさにこの通常国会からが勝負である。安倍政権と野党、どちらにとっても分かれ目となる19年の通常国会がスタートする。
(さとう こういち・ジャーナリスト。2019年1月25日号)