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神戸地裁、被災者に復興住宅退去命令 
不可解な「期限通知なし」

粟野仁雄|2019年3月11日10:01AM

2月8日、会見に臨んだ八木和美さん(左から2人目)ほか「市民の会」メンバー。(撮影/粟野仁雄)

阪神・淡路大震災の被災者に民間マンションを借り上げて提供していた兵庫県神戸市が「20年の借り上げ期限が過ぎた」として退去を迫って提訴していたキャナルタウンウェスト(同市兵庫区)の4世帯4人(女性3人)の高齢者について神戸地裁(和久田斉裁判長)は2月7日、市の主張通り退去と期限満了からこれまでの賃料相当額を支払うことを命じた。

同市はこれまで5カ所の団地で12世帯を提訴した。今回を含めてこれで7世帯について判決が言い渡されたが、神戸地裁はすべてで市の主張を認めて、住民に退去を命じている。

神戸市は大震災で住居が不足したため、都市再生機構(UR都市機構)など、民間マンションの空き部屋を借り上げて被災者に安い賃料で提供し、震災翌年の1996年から97年にかけ被災者が入居していた。しかし、入居者に対しては入居許可証などでも期限があることを伝えていなかった。それでも2016年の期限となる少し前に入居者に期限の存在を通知して、市が提供した別の住宅に転居させてきた。

しかし、一部の住民らは「期限のことを知らされていなかった」ことや、健康状態などを理由に退去を拒否していた。すると市は期限切れとなった16年に明け渡しを求めて神戸地裁に提訴した。

この日の判決で和久田裁判長は「期限の満了日の6カ月以上前には通知しており、満了日に明け渡しを請求することができる」とした。入居者の弁護団は「体の弱った高齢者が慣れない環境に移ると転倒したり、認知症状が進んだりする危険がある」と、医療関係者の意見書などを添えて訴えてきた。しかし同裁判長は一定の身体的、精神的負担は認めたものの、市がバリアフリーの住宅を用意したり、希望の転居先が空くまで転居を猶予していることなどから「健康被害の危険が高いとは言えない」と認定した。

【市側が借り上げ期限を伝えなかった思惑とは】

4人中の最高齢で、震災時の火災で夫を失い、キャナルタウンウェストに暮らしてきた中村輝子さん(83歳)は「年を取って弱っている人の痛みがわかってほしかった」と肩を落とした。

この日、被告席ではなく傍聴席に座り、同じく神戸市に訴えられている川添輝子さん(75歳)らと判決を見守った丹戸郁江さん(75歳)は、「あっという間の判決でした。和久田裁判長はこれまでの聞く耳も持たない裁判官と違って、私が昨年の11月に意見陳述した時もとてもよく聞いてくださったので、少し期待はしていたのですが、やはり市の権力というのでしょうか……とても残念です。裁判長さんも法律家なら生存権とか、憲法を守る立場に立ってほしいです」と話した。4人は大阪高裁に控訴する方針だ。

借り上げ復興住宅の問題では「シティハイツ西宮北口」(兵庫県西宮市)に住み退去を拒否している中下節子さん(80歳)や、神戸市東灘区の「シティコート住吉本町」に住む男性に対する判決が2月20日に予定されている。

「借り上げ復興住宅訴訟の再考を求める西宮市民の会」(八木和美代表)は8日、西宮市の石井登志郎市長宛に、人道上の見地から提訴の取り下げや和解などで中下さんが今後も住み続けられることを求める要請書を出した。八木代表やメンバーの女性らは、「中下さんは昨日の神戸の判決がショックで体調が悪くなり今日の申し入れにも来られなくなった。精神的にも肉体的にも高齢者が追い込まれている。石井市長は最近、私たちとの直接面談を逃げているが、ぜひ善処してほしい」と訴えていた。

契約はあくまでも市とマンション事業者とのもの。当初、期限を通知しなかったことについて神戸市や西宮市は「震災時の大混乱」を言い訳にしているが、大混乱など一段落していた。通知すると入居者は次の住居を考えてしまう。UR都市機構のような「天下り団体」の職員らが長年、何の営業努力もせず過ごせるように、あえて通知しなかったのではないか。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、2019年2月22日号)

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